『零影小説合作』第十話〝険悪と成長の日々〟
『零影小説合作』第九話〝発露と合宿〟
『零影小説合作』第八話〝助勢と沈黙〟
『零影小説合作』第七話〝真否と危険〟
油断した時が危ない的な台詞って、大体強キャラが発しますよね。
今回は言われる前に危険が彷徨って来たようです。
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☆
エノ、不思議な少女だ。
見ているだけで落ち着くし、何故か自然と見惚れてしまう。
声もまるで、小鳥の囀りか白色透明のように透き通っている。
そこそこ、美少女と言っても過言ではないであろう。
高貴な姿やオーラを出しながらも、貴族や王族特有の自尊心というものが一切と見受けられない。
前世では自らの行う政治などに、不満や文句などなど口々に言い張る貴族ばかりであったが、このエノという少女となら良い政治ができそうだ、と何故か王様時代の気持ちに戻ってしまった。
そんなことを小さな岩に座りながら考えていると、後ろから頭に向かって小さな木刀が振り下ろされ、コツンと良い音がなる。
「いった……」
後ろを振り返ると、異常に眩しい太陽の光が襲い、思わず手を翳してしまう。
「今日は妙に日差しが強い日だね。そこで、それを直感的に見れているかどうか、ちゃんと周りを見ているかということを知りたくてね。どう? ちょっと賢いこと言ったでしょ?」
そんな軽やかな口調で、光を背に言うのはクレム先生だ。
「分かってますよ、今行きます」
小さな笑顔を掲げ、また鍛錬を行う原っぱへと戻って行く。
「今日は、エノの衣服やらを買わないとな。あのままじゃ可哀想だし」
「そうですね。でも、女の子だからって先生また変なもの選んじゃダメですよ?」
アーサーは睨むようにして、クレムを要注意した。
アーサーにはとある私憤があった。
クレム先生と小屋で住むようになってから約一日目、衣服が無い為、おおきな街に繰り出し購入した。
ここまではいいのだが、この人はドレスをなんの躊躇いなく購入してきた。
理由は、金髪が珍しいから、だそうだ。
金髪はこの時代、女の方が割合が高く男は少なかった。
若い男などは昔から戦場に駆り出され、その遺伝子を残すことなく散っていった。
そして、やはりそのような壮麗な髪は貴族などの裕福な家庭などが多い。
なんとなく分かる事由だが、男の本能的に女物を着るなど、到底拒絶する。
それを断ると、なんと急に肩を落とし足を正座のように曲げると、クレム先生は目を覆うようにして泣き出したのだ。
そのようなお洒落、というより着物の類についてはかなりの自負心があったらしく、騎士道をもとることより辛いことであった。
結局その服は着ることなく、小屋の主軸となる大黒柱に貼り付けのように飾られた。
「分かってる! 分かってるってば!」
そんな焦燥をしながら、三人が鍛錬する場所に戻り再開した。
夕刻、鍛錬も終了しいつも通り小屋に戻った。
汗で塗られたぐっしょりなシャツで、小屋の外に流れる川の水で顔を洗っていると声を掛けられた。
「アー、サー…」
それは、綺麗な街娘が着るような服を着たエノの姿だった。
「エノか。中々似合っているぞ、その服」
「そ! そう、かな。えへへ……なんか嬉しい」
頬を赤くに染め上げるアーサーは、可愛いと感じるより何故か愛らしいと感じた。
「まるで、レテナのようだ」
そう言うと、また頭の奥で閃光が迸った。
このようなことは短時間に偶にあるので、完全に馴致したのかと思っていた。
だが、今回のは純度、というより脳に掛かる衝撃が違う。
踏襲ができない。
ーーレ、テナ? 誰だそれは、一体何故言った。
「あっ、ぐっ、あああっ!」
頭を上下に振り、狂乱したかのように叫び声に近い声を荒げる。
無意識に不意と起こったことなので、衝撃の後の深淵があまりにも深く余震のようなものが襲う。
「ぐっ、あ!」
その途端、目から潤みが消え去り全身の力が消失してその場にバタンと倒れこんだ。
「アーサー!? アーサー!!」
身の危険を感じたのか、木の裏に隠れていたエノが駆け寄った。
★
目が覚めると最近見慣れつつある天井が視界に入る。
身体を起こすと、頭の中身をグチャグチャと掻き回すような不快感がアーサーを襲う。
「アーサー、大丈夫?」
「……エノ」
声を掛けられた方へ顔を向けると、そこにはエノが寄せてきたと思われる椅子に座っており、その整った顔を傾けていた。
「ああ……大丈夫だ」
この身体になってから頭痛と失神と妙に縁があるようだ。
体質なのだろうか。
そこでふと、疑問が浮かんだ。
「エノ。私をどうやってこの小屋まで運んだ?」
「僕をお忘れかな? アーサー」
そう言って視界に捻じり入ってきたのはクレム先生であった。
——しまった。エノに意識が行ってしまい、完全に忘れていた!
「やれやれ。先ほどもそうだが、余り視線を送り過ぎても怯えられるだけだぞ? ア・あ・サ・あ・君」
「……?」
「五月蠅い!」
皮肉げに言うクレム先生に、エノは首を傾げ、アーサーは怒鳴り散らすというそれぞれがそれぞれな反応を見せる。
しょうがないのだ。年頃(ジーク曰く十歳らしいが)の少年に、あんな美少女を置くと、それそれは目線も意識も行ってしまうものなのだ。
しょうがない。これは自然の理、世界法則なのだ。仕方が無いったら仕方が無いのである。
「にしても君はよく倒れるな、アーサー君。体質なのかい?」
クレム先生が口にした質問は、アーサーが数分前に浮かべた疑問のそれとほとんど同じ内容であった。
過去の記憶を思い出そうとすると、出てくるのは記憶では無く頭が引き裂かれるような激しい頭痛だ。
——それはまるで、不審な人物が都に入ろうとして、門番に摘み出されるような、そんな印象を受けるものだった。
「はい……まあ、そんな感じです」
アーサー自身ハッキリしていないので、取り敢えず適当に返事することにした。
アーサーはそういえばと別のところへ意識を移す。
——それはこれ以上、『記憶』のことについて考えたくなかったからかもしれない。
「そういえばクレム先生。私はどれくらい眠っていたのですか?」
「ああ、約八時間くらい、かな。もう朝だ。君用に朝食を作っておいた。夕飯も食べていなかったからよく食べるように」
クレム先生はそう言ってテーブルの上に置かれた皿を、顎で示す。
だがその口調はまるで、
「どこかへ行くのですか?」
「ああ。僕とエノは先に食べたからな。エノの服をこの村の雑貨屋で買おうと思って。服は未だしも、女用の下着を騎士様が買っていると思われると、アレでだな……」
「ああ、なるほど。分かりました」
エノの顔ばかりに目線を送っていて、そこまで考えてなかったアーサー。
だが確かに、クレム先生一人が行くとアレだし、かと言ってエノ一人だけに行かせるのも心配だ。
アーサーも行きたかったと思ったが、タイミングが悪かった。
止むを得ないという考えと少し刺激が強過ぎるなという考えで、自分を無理矢理納得させる。
「クレム先生。決してエノに危険が無いようにお願いしますね」
「肝に銘じておくよ」
暗に「血迷ってエノを襲うことが無いように」と皮肉るアーサーに対して、またもや不細工なウインクを送るクレム先生。
正直不快である。
「では、行ってくるよ」
「大人しく、しててね。アー、サー」
「気をつけてな。エノ」
出発を告げる二人とエノにのみ挨拶をするアーサー。
早足で出て行く二人を見送ってから、アーサーは小屋のドアを閉める。
さて、朝食を食べようと椅子に座ったところで、ドアがノックされる。
——トン、トントントン。
アーサーは二人が何か忘れ物をしたのだろうと思い、ドアノブに手を掛ける。
なんだかんだでうっかり屋の二人だ。よくあることだろうと、そんな平和なことを考えながら。
——それはエノという大きな存在に浮かれ、気が抜けていたからかもしれない。
はっきり言って、アーサーは油断をしていた。
「なにを忘れたんだ、クレムせんせ——」
「は〜あぁ〜い」
扉を開いて現れたのは、安心感を与える落ち着いた青髪では、なかった。
そこに現れたのは危険色の赤色だった。
「なッ……むぐっ!」
「はーいはーい。静かにね〜ぇ」
口を手で塞がれて小屋の中に押し込まれる。
その勢いのままに、アーサーは赤色に寝床まで押し込まれ、やがて押し倒される。
「また、二人でお話、しよっか?」
アーサーの紅い瞳に映るは赤髪の少女——のような悪魔。
「アスタロト、だよ?」
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ドキドキ! 赤髪美少女と二人っきりのお留守番!
気になる続きはhttp://kuhaku062.hatenablog.com/にて!
『零影小説合作』第六話〝未開と決定〟
『零影小説合作』第五話〝真意と少女〟
熱で寝込む少女っていいですよね。なんかそそるものがあります。
五回裏です。どうぞ。
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☆
生前、こんなことを考えていた。
森とはどんな場所であり、どんな生き物たちが住む楽園なのだろう。
戦の最中で見るのは、森が焼け野原になり居場所を失い途方にくれる生き物たち。
悲痛だった、見るに堪えないその光景に幾度となく心を痛め、涙を流した。
だが、今のこの状況。
神の天罰か、はたまた何かの縁あってか。
逆に自分が居場所を失った鳥になってしまった、悲壮感や絶望感はないが、何故か間接的なものがあり新鮮で良かった気もした。
謎が、謎を呼ぶ国と国との火花の飛ばし合いや黒幕。
「少し考えすぎだな…森にでも行ってこのモヤモヤをすっきりさせよう」
しかし、アーサーの前世での記憶はとどまぬことを知らず、徒歩をしている最中にも蘇った。
暗殺されていなければ、十一年前に戻ることができるのなら、どれだけ素晴らしく僥倖なことやら。
戦の目的は膨大な資源や広大な大地、民。
そして、強力な王国との貿易や関わりを保つ為の港。
だが、ここでまた脳裏に閃光が走ったかと思うと、とんでもないことを生前の自分は考えていることが分かる。
先程の目的もあるが、本当の真意というものは自分の中にあった。
それはなるべく公にせず、自らの独断で成し遂げようとしたことである。
アルカニスの姫巫女の力だ。
神という空想の人物をまるっきり存在すると信じこんでいた前世の自分は、宗教の力で国を守ろうとした。
その為には神聖な存在が必要となる、そこで隣国に不思議な力をもつ姫がいると聞き、密接な関係を築き上げるため、レトアニア王国と戦っているという情報を手に入れ支援をした。
その結果、長規模な戦いになる。
その大袈裟な目的を達成するため奮闘したが、殺された。
結局、神という存在に媚びをうり、足の脛を齧った結果だ。
「あぁ! もう! やめだ! やめだ! こんなことを考えていては、気分転換にもならないし探検しにきた理由もない!」
そういって自分を怒鳴り叱りつけると、大声を出しながら、森に向かって走り出した。
何故か、声を出すと無駄な体力は消耗するが悪いことや気分を吹っ飛ばせるような気力が沸いてでてくるような気がするからだ。
「あれ? おーい! アーサーじゃねーか!」
「お前、バルハとアールか」
「なんだ、アーサーか。ここで何をしている」
こっちが質問したいのだが逆に質問されて少し狼狽えるが、体制を立て直して得意げな顔をして言う。
「私は散歩だ! この優雅な自然を久しぶりに堪能する為にな」
「久しぶり…? まぁ、いいや。俺らはさ抜けられない聖剣グレイブルーセイバー?? とかいう剣を見つけてさ!」
グレイブルーセイバー。
生前で勉強した覚えがある。
初代リトアニア王国の大王ジャネーブ一世がさした唯一の聖剣であり、それを抜いた者には永遠の栄光と、名声が約束されるという伝説上の剣だ。
──────そんなお伽話のような剣が実在するとはなぁ…
「しかも! その剣な、初代の王様が抜いて以来誰も抜いたことが無いんだって!」
「へー、それで?」
「お前やってみろよ! 俺らがいた高台にささってるからよ!」
そんなことを健気な笑顔で言うと、手を掴まれ連れられるがまま、その剣の前に立たされた。
なんの威厳もオーラも感じられない。
伝説によれば、魔力か何かで抜けたとかなんとか言っていたが、まあ結局は伝説空想上の物語だ、と何故か納得すると剣の持ち手に手を伸ばした。
「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!!!」
抜けない。
─────アーサーとかいう物語に出てきそうな立派な名前しときながら抜けれないのか
そんな愚痴を心でポツンと零す。
「じゃ、私は森に行くから」
剣は諦め本来の目的の場所に行こうとするが。
何故かバルハに止められた。
「あの森は迷いの森って言われてる! 今の時間帯に入れば一生戻れなくなるぞー!!」
その言葉を聞き、背筋が凍りついた。
腹を壊したかのように、見事に血相を蒼ざめると、震えた声で言い返した。
「ふ、ふん。それくらい知っていたさ! ではな! 私はもうクレム先生のところに戻るからな!」
そういうと、足をネジのように信じられない速度で回転させてその場から立ち去っていった。
そして、また村の広場に戻ると、息を荒げながら慢心していた自分を一喝して落ち着いた。
座っていると、無駄に聴力が良いのか村人たちの話し声や噂話しが、風のように耳に入ってくる。
「ザムンクレムの連中、やっぱり苦戦しているみたいだぞ」
「まあ、そりゃ都市国家だからなぁ。いつでも兵や総力戦、それに様々な都市に優秀な人材なんか余るほどいるからねぇ。それに複数の都市国家、ましてや支配したアルカニスの領土も有効活用すれば、ザムンクレムも苦しめられるわな」
予想通り、苦戦していることが分かるとホッと安堵したかのように下を俯く。
元々、民や都市は王が統括して纏めるものだ。
私が死んでから突発的すぎることだったので、余計に焦ったのか王の選択を精々間違えたのだろう。
それか、わざと王をまだ幼い子供にさせ、ずる賢い大臣に操られているか、だ。
それに、四天王という強力な神器を持った存在がその王国に顕現していたとしても、戦略や、人材に長けたリトアニア王国に負けるのは目に見えているだろう。
ましてや逆に勝負を挑まれれば、一瞬で壊滅されることは間違いなしだ。
そのうち、攻めても無駄ということに気づき、内政に力を入れて数年間は戦争はないだろう。
「さて、明日も訓練だ、全てを知る為には強くなるしかない…戻るか」
そう呟くと、元王は先程ダッシュしすぎてパンクした足を庇いながら師の元へ戻っていった。
★
小屋に戻る頃には空も真っ黄色に染まっていた。
一方アーサーの脚は疲れ切って鉛のように重くなっていた。
本当に体力がない。これから体力は徹底的に付けて行くべきだ。
「ん、クレム先生まだ帰っていないのか」
小屋は無人だった。
アーサーは水を飲み喉を潤す。
アーサーはふと飲用水を見る。
綺麗な水だ。この付近には川でも流れているのだろうか。
これは先ほど渡った道を見て分かったことだが、今は春だ。
春に咲く花が咲いていた。
夏もすぐに来るだろう。
ジーク達に聞けば川の一つも見つかるかもしれない。夏はそこで鍛錬出来たらと考える。
——魚が食べたい。
それがアーサーの本音だった。
アーサー、いやかのザムンクレム元王は魚が大好きなのだ。
川さえあれば。
明日にでも探そう。
魚の味を思い出したせいか腹の虫が鳴く。
その音を聞き、アーサーは苦笑する。
今のは少し子どもっぽかったな、と。
そういえば、とクレムの荷物の方へ視線をやる。
そこには一式の鉄の鎧があった。
重装騎士がするような重々しくも威圧があるタイプではない。寧ろ胴や間接部を守る軽いタイプだ。
クレムの身のこなしはいつも軽やかだ。しかしその気になれば、走る馬車と並ぶくらいの速度を出せそうな気配がある。
あの騎士は敏捷なタイプの武人なのだ。
と、そこでバンとドアが乱暴に開かれる。
すわ敵襲か、とアーサーは条件反射で椅子を蹴り小屋の入り口から距離を取る。
だがその行動は杞憂に終わる。
「なんだクレムか」
そこには血相を変えて何かを背負ったクレムが立っていた。
否、それは誤りであった。
クレムはそそくさと己の寝床に近付き、背負っているものをそこに下ろす。
「アーサー! 水と布を頼む!」
一瞬戸惑ってしまったが、どうやら緊急事態らしい。アーサーは急ぎコップ一杯の水と、台所にあった湿った布を焦るクレムへと渡す。
「クレム先生、」
「女の子だ。道端で女の子が倒れていたんだ」
何が起こったかを聞こうとしたところ、言い終わる前に解答が帰ってきた。
道端で女の子。
いきなり過ぎる展開だ。アーサーの頭はあまり追いついていない。
アーサーが呆然としている間に、濡らした布を女子の額へ置くクレムは状況を確認するためか、アーサーに状況を伝えるためか言う。
「この女の子。村から出て一時間のところで倒れていたんだ。触れば分かるだろうが、高熱で倒れたと思われる」
状況を説明され、アーサーはクレムのベッドで横たわる少女を見やる。
夜の空を思わせる暗い青色の髪をした少女だ。
苦痛で顔を顰めたその顔は特別可愛いという程ではないが、整っている。だが頬は紅潮し、口からは荒い息を吐いている。
アーサーは体温を測る為、少女の首へと手を伸ばす。
烈火の如く熱い。クレムの言う通り高熱だ。
アーサーの手を熱い手が包む。
見ると少女が薄く目を開いてこちらを見ていた。
未だに息は荒い。だがそれでもこちらを見やる少女の目線には、助けを求めるようなものを感じた。
「助けよう」
自然と口から出たのは慈悲の一声。
アーサーは自分の手を覆う熱い少女の手を両手で握り、クレムへ目線をやる。
「そうだな。お粥と晩飯をつくる。アーサーは彼女の世話をしていてくれ」
「分かった」
再び少女の方を見る。
薄く開いてた目はまた閉じられている。
だがその表情は幾らか安心している者の目であった。
気のせいか、握る手から握り返される感触を受ける。
よく分からないが今は少女を助けなければならない。
どうしてか分からないが、アーサーはそんな事ばっかり考えていた。
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少女の正体は?!
気になる続きはhttp://kuhaku062.hatenablog.com/にて!
『零影小説合作』第四話〝進撃と鍛錬〟
※改訂版です。
誤字や私(影星)とゼロ君による呼称の違い、あとは不自然と思われる表現を一部直しました。
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☆
眩しい太陽の光が目を刺激する。
小鳥たちが交互に飛びあい、家畜の鶏が合図のように鳴り響く。
朝だ。
人生に何回も経験しているというのになんだが、今回だけ特別に清々しい。
だが、体が妙に身軽くおぼつかない。
そうだった。
自分は小さな平民の少年になっていたんだ。
すっかりと頭から抜けていたので、身体を操作することが困難になり、足が他律したかのようにフラフラとその場を歩き回る。
無意識のうちに小屋から出ると外では鳥の卵を焼くクレムに出会う。
「おーう! おはよう! いい朝だな」
「誰だ、お前」
まだ寝ぼけているのか、記憶が戻らないのか、まるで理解に乏しい状態のアーサーであった。
この世の終わりのような顔を浮かべながら驚愕したクレム先生は、またもやムカデのように爬行するとアーサーの目の前まで行く。
「起きろォォォォ!!!」
やがてクレム先生は勢いよく頬をビンタすると、アーサーの潤みの無くなっていた瞳に煌めきが戻る。
どうやら意識が完全に覚醒したらしい。
覚醒のついでか、痛覚も蘇る。
「いっでええええ!! 何をする!!」
いかにも少年が上げそうな、というか少年が上げる荒々しい声に、クレム先生は安堵の表情を浮かべる。
「お前が寝ぼけてたから起こしてやったのだよ。感謝するべし」
まだ完全に開ききっていない目でなんとか視界を広げようとするアーサー。
石造りの民家が点在する村のため、太陽の光が石から反射して、自然の何もかもが自分に対して目覚めろと言っているようで、半心アーサーはイライラしていた。
ハッハッハ〜とクレム先生が軽く笑う。
憎たらしいが、ここでモヤモヤしている訳にはいかない。
精神を一旦落ち着かせると、これまであったことをまるで電脳のように解析、整理しだした。
二つの王国、四天王、暗殺、前世の記憶。
そしてアスタロト。
昨夜に見たものは紛れもない事実であり、現実であることは身体が覚えていた。
実際に戦い、その強さを身に染みて感じた彼にとっては恐怖感、そして困惑。
この二つの原点は有り余るほどに感情や心を蝕み続けていた。
ことの顛末はこの身体になってからだ。
この体になる前の、この体の持ち主であった普通の少年は一体何者であり、何をした?
疑問が疑問を呼ぶうちに。
「おーい! 考えごとよりまずは飯食ってすっきりするぞー」
そんな励ましのような催促のような声が、今までの考えていたことがまるで一本の道に並べられた灯篭が、一瞬にして消えるかの如く薄い火のようにスッと消滅してしまった。
「あ、あぁ……」
——全く、この男のせいで台無しだ。
そんなことを思うと、少年はまた一つ、大切なものを手に入れた実感が湧いた。
「ぐっ、はッ……」
「おいおーい、本当に根本的なことからやっていかないとダメなのー? アーサー君全然体力ないじゃーん」
草木が生い茂る中に、汗塗れの顔をぐっしゃりと無様に置いた。
——前言撤回……なんで私にだけこんな厳しいんだ。と思わざる得ない。
基礎体力をつける為、走るにしても筋肉トレーニングにしても、全く良い成績を残すことができない。
というより、無茶過ぎるのだ。やらされていることが。
「今は動乱の時代だよー。体力がなければ重い鎧担いで走ることもできないし、剣も振り回すことすらできないよー? だから体力がものをいうから、それが登龍門といっても過言ではないかもしれない」
「こ、ここからですよ……」
息を荒げながら、アーサーはまた赤い眼光を光らせてまた山道を走り出した。
「あいつ、なんか先生と会ってから変わりましたねー」
「そうか? 全然何も変わってない感じに見えるけどねー」
アーサーをクレム先生の所にまで連れてきた三人の子供たちは、その後を追うようにして走って行く。
「おわ、終わった……なんで私だけ山道二十周なんだ」
こんなにまで苦しいと思った鍛錬は初めてだ。
何かに桎梏されているようで、情けないことに正直言ってもう心が折れそうだった。
だが、ここで衷心を露わにすれば全ての真実が知る前に老いて死ぬか、徴兵されて戦場で一人の敵倒すこともなくあの世に行くだろう。
それは、『王』としてのプライドが許さなかった。
自らの体と相談し、許容できる範囲で鍛えた。
駑馬に乗るような、皆より劣っているため、気分が非常にどんよりとしている。
「おい、聞いたかザムンクレムが俺らの領土内に侵入したらしいな」
「やべぇな……こりゃ大戦争の前兆か? 絶対戦場行きたくねぇよ」
そんな声が、家畜の整備をしていた男たちから漏れていた。
「もう、奴らが進撃を始めたのか」
そんなことを呟くとまた鍛錬に戻ってゆくが、ここで信じられない言葉を聞いてしまう。
「しかも、奴らは悪魔と契約して強大な力を得ているらしいぜ」
「悪魔? 例えばどんな悪魔?」
「聞いた所によると、大悪魔アスタロトとかいうやつでな」
その言葉に思わずハッとした。
昨夜、自分を襲撃した赤髪の少女ではないか。
——まさか、本物の悪魔であり我が王国を裏で操る影にもなっているのか……?
妙にそのことに怒りが込み上げた。
歯をギシギシと鳴らし、不満をわざと表情にだした。
「絶対にゆるさねぇからな、アスタロト!」
アーサーはそう自らを鼓舞し、気合を入れ直した。
——誰にもいない所で叫ぶように見えた。
が、そこに一人の物陰があり。
俊敏なアーサーでも気付けないその正体は自ずとまた暗闇に影を消した。
★
小屋の前の平場に戻るとそこでは少年達のリーダー格……クレム先生からはジークと呼ばれていた白髪の少年が丁度クレムと模擬戦をしているところだった。
「タァ! セアァ!」
「斬る相手を見て、正確に剣を振るんだ。そして無駄な力を入れるな」
「ふむ」
ジークが我武者羅に木剣をクレムの振り、クレム先生はそれを躱したり受けたりしているところだった。
ジークはまだまだ未熟だが、中々見所がある。きっと良い剣士になるだろう。
クレム先生はやはり手加減しているようだが、動きに無駄がない。動きが軽やかなのだ。
生前では一国の王でありながら最前線で剣を振り、数十もの命を奪ったりしてきたアーサーだが、その経験で得た知識からもクレムという男の動きは、出来上がってると言っても良い程のものだった。
——最初の目標はクレムに勝つことからにしよう。
アーサーはそう決める。昨日と今日、この身体を使って分かったことだが、この身体は感覚が鋭い。
視力や聴力が特に高いと言える。
身体はまだまだ貧弱だが、しかし鍛えれば結構良い線まで行くはずだ。
アーサーは早くも身体に馴染み始めていた。
——アスタロト。
生前統べていた国を裏で操っていると思われる、何故かこのアーサーという存在を気に掛ける謎の悪魔。
先ほど耳に入った噂が事実ならば何れ彼女と闘わなければならない。
自問自答。
——私に、かの悪魔を倒せるのだろうか。
難しい。少なくともあと十年は鍛え続けなければ足元にも及ばないだろう。
——彼女は何故私を監視しているのだろう。
私がこの身体になる以前にアーサーという少年が何かした。或いは生前の私を……。
アーサーは頭(かぶり)を振る。
どうせ今考えてもしょうがない問題だ。
切り替えて目の前の状況に集中しなければならない。
なに、記憶を持ったまま子どもに戻れたと考えればかなりの幸運と思えるではないか。
「おーい、アーサー! なにそこで突っ立ってんだよー!」
そこで昨日ジークの後ろに居た少年二人がアーサーの名を呼びながら手を挙げる。
彼らは二人で模擬戦をしていたようだ。片方が地面で大の字になって転がっていた。
アーサーは手で、汗で額に張り付いた金色の前髪を払いながら、彼らの元へと近づく。
「よう。クレム先生は今ジークの相手してるから、一緒にジークの闘ってるところ見てよーぜ」
「う、うむ。えーっと……」
「ん? ああ、オイラの名はバルハっつぅんだ。んでそこで寝てる奴はアール。そういえば話すの初めてだよなー!」
彼らとは話してなかったらしい。楽で結構だ。
バルハは黒髪をハンカチで覆い、後ろで縛った三白眼の少年だ。イタズラが好きそうな印象を受ける。
それに対してアールは身体が大きい。褐色肌とまでは行かないが、肌の色が少し濃いか。暗い茶髪の大きな少年は、体格に似合う穏やかそうな顔付きをしていた。
「にしてもよー。昨日のアーサー変だったよなー」
「ああ……昨日は少し、取り乱したな」
バルハと二人、隣り合って座りながらジークとクレム先生の模擬戦を眺める。
いや、後ろにアールが立っている。三人で模擬戦を眺める。
「お」
木剣をクレムに弾かれジークが尻餅をつく。決着がついたようだ。
ジークは悔しそうに息を整えながら、クレム先生をその蒼い瞳で睨む。
そんなジークにクレム先生は優しく微笑みを向け、
「うん。ジーク、君はやっぱり良い剣士になるよ」
と褒め称えた。
当分はクレム先生よりジークがライバルになりそうである。
生前にもそんな存在がいた。奴は今どうしているのだろうか。
「お、アーサーか。君も体力を付ければいずれジークと良いライバルになるだろうな。頑張れよ」
クレムはアーサーのところまで行きアーサーの肩を励ますように軽く叩く。
「りょうか……いえ、分かりました! クレム先生!」
「うむ。結構。では皆、一度小屋に入って休憩とするか」
『おう!』
少年達は先生の指示に対して声を揃えて良い返事をする。
「はあ……」
「アーサー。集中するんだ。歴史を学ぶことも、騎士には重要なことだ」
あの後、昼飯を取ってからジーク達は帰って行った。
勿論、アーサーの家はこの小屋であり、まだ午後の授業が残っているので居残りすることになっている。
授業はレトアニア王国がまだ都市国家セントヴィールタニアがどのようにして、王国へと成長したかの内容だった。
アーサーは己の金髪を乱暴に掻く。
生前で知っているレトアニアの知識と言ったら、統べていたザムンクレム王国の同盟を結んでいた国、アルカニス王国と長年競り合ってきた成長途上の国だ。
もともとレトアニアは複数の都市国家による戦争で勝ち抜き、それらを統べたことで知られる。
都市国家群一帯は自然に溢れており、資源が豊富だった。それらを手にしたのだから彼らは警戒すべき強国として各国に認識されている。
実際私も彼らをアルカニスに吸収させその上でアルカニスを吸収し、ザムンクレムを一つの大国へと成長させる計画があった。
そう。あの時殺されて居なければ——
「これこれ。アーサー。ちゃんと授業に集中しないかね。夕飯抜きにするぞ」
ただ張り切っているだけと思ってた時期もアーサーにはあった。やはりクレムという男はスパルタだった。
冗談はさておき、アーサーは授業を聞く振りをする。
しかし、レトアニア王国の平民に転生した今、アーサーはどちらの味方をすべきかで悩んでいた。
生前愛したザムンクレムか。今住むレトアニアか、である。
レトアニアとザムンクレムは近い内に周辺国をも巻き込む戦争を起こすだろう。
そうなった場合、今のアーサーは何が出来るのだろうか。
ザムンクレムを操っているという悪魔達を排除し、救いたい。しかしレトアニアはアーサーの住む国だ。
——私はどちらの味方をすることになるのだろうか。
今のアーサーにはその答えを導き出すことはできなかった。
「授業を終了する。休憩してよし。僕はこれから夕飯を調達してくる。呉々もこの村から出ることは無いように。いいね」
「はい」
考え続けるだけで授業を終えてしまった。
クレム先生はそそくさと出て行ってしまった。
さて、休憩するのもいいが、暇である。どうしたものか。
「少し、そこら辺を探検するか」
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次回、第五話〝真意と少女〟