影の呟き

影さんの小説を主に飾るブログです。

『零影小説合作』第五話〝真意と少女〟


 熱で寝込む少女っていいですよね。なんかそそるものがあります。

 五回裏です。どうぞ。



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  生前、こんなことを考えていた。


  森とはどんな場所であり、どんな生き物たちが住む楽園なのだろう。


  戦の最中で見るのは、森が焼け野原になり居場所を失い途方にくれる生き物たち。


  悲痛だった、見るに堪えないその光景に幾度となく心を痛め、涙を流した。


  だが、今のこの状況。


  神の天罰か、はたまた何かの縁あってか。

  逆に自分が居場所を失った鳥になってしまった、悲壮感や絶望感はないが、何故か間接的なものがあり新鮮で良かった気もした。


  謎が、謎を呼ぶ国と国との火花の飛ばし合いや黒幕。


 「少し考えすぎだな…森にでも行ってこのモヤモヤをすっきりさせよう」


  しかし、アーサーの前世での記憶はとどまぬことを知らず、徒歩をしている最中にも蘇った。


  暗殺されていなければ、十一年前に戻ることができるのなら、どれだけ素晴らしく僥倖なことやら。

  戦の目的は膨大な資源や広大な大地、民。


  そして、強力な王国との貿易や関わりを保つ為の港。


  だが、ここでまた脳裏に閃光が走ったかと思うと、とんでもないことを生前の自分は考えていることが分かる。


  先程の目的もあるが、本当の真意というものは自分の中にあった。


  それはなるべく公にせず、自らの独断で成し遂げようとしたことである。


  アルカニスの姫巫女の力だ。

  神という空想の人物をまるっきり存在すると信じこんでいた前世の自分は、宗教の力で国を守ろうとした。


  その為には神聖な存在が必要となる、そこで隣国に不思議な力をもつ姫がいると聞き、密接な関係を築き上げるため、レトアニア王国と戦っているという情報を手に入れ支援をした。


  その結果、長規模な戦いになる。


  その大袈裟な目的を達成するため奮闘したが、殺された。


  結局、神という存在に媚びをうり、足の脛を齧った結果だ。


「あぁ!  もう!  やめだ!  やめだ!  こんなことを考えていては、気分転換にもならないし探検しにきた理由もない!」


  そういって自分を怒鳴り叱りつけると、大声を出しながら、森に向かって走り出した。


  何故か、声を出すと無駄な体力は消耗するが悪いことや気分を吹っ飛ばせるような気力が沸いてでてくるような気がするからだ。


「あれ?  おーい!  アーサーじゃねーか!」


「お前、バルハとアールか」


「なんだ、アーサーか。ここで何をしている」


  こっちが質問したいのだが逆に質問されて少し狼狽えるが、体制を立て直して得意げな顔をして言う。


「私は散歩だ!  この優雅な自然を久しぶりに堪能する為にな」


「久しぶり…?  まぁ、いいや。俺らはさ抜けられない聖剣グレイブルーセイバー??  とかいう剣を見つけてさ!」


  グレイブルーセイバー。


  生前で勉強した覚えがある。


  初代リトアニア王国の大王ジャネーブ一世がさした唯一の聖剣であり、それを抜いた者には永遠の栄光と、名声が約束されるという伝説上の剣だ。

 ──────そんなお伽話のような剣が実在するとはなぁ…


「しかも!  その剣な、初代の王様が抜いて以来誰も抜いたことが無いんだって!」


「へー、それで?」


「お前やってみろよ!  俺らがいた高台にささってるからよ!」


  そんなことを健気な笑顔で言うと、手を掴まれ連れられるがまま、その剣の前に立たされた。


  なんの威厳もオーラも感じられない。


  伝説によれば、魔力か何かで抜けたとかなんとか言っていたが、まあ結局は伝説空想上の物語だ、と何故か納得すると剣の持ち手に手を伸ばした。


「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!!!」


  抜けない。


 ─────アーサーとかいう物語に出てきそうな立派な名前しときながら抜けれないのか


  そんな愚痴を心でポツンと零す。


「じゃ、私は森に行くから」


  剣は諦め本来の目的の場所に行こうとするが。


  何故かバルハに止められた。


「あの森は迷いの森って言われてる!  今の時間帯に入れば一生戻れなくなるぞー!!」


  その言葉を聞き、背筋が凍りついた。


  腹を壊したかのように、見事に血相を蒼ざめると、震えた声で言い返した。


「ふ、ふん。それくらい知っていたさ!  ではな!  私はもうクレム先生のところに戻るからな!」


  そういうと、足をネジのように信じられない速度で回転させてその場から立ち去っていった。


  そして、また村の広場に戻ると、息を荒げながら慢心していた自分を一喝して落ち着いた。


  座っていると、無駄に聴力が良いのか村人たちの話し声や噂話しが、風のように耳に入ってくる。


「ザムンクレムの連中、やっぱり苦戦しているみたいだぞ」

「まあ、そりゃ都市国家だからなぁ。いつでも兵や総力戦、それに様々な都市に優秀な人材なんか余るほどいるからねぇ。それに複数都市国家、ましてや支配したアルカニスの領土も有効活用すれば、ザムンクレムも苦しめられるわな」

  予想通り、苦戦していることが分かるとホッと安堵したかのように下を俯く。


  元々、民や都市は王が統括して纏めるものだ。


  私が死んでから突発的すぎることだったので、余計に焦ったのか王の選択を精々間違えたのだろう。


  それか、わざと王をまだ幼い子供にさせ、ずる賢い大臣に操られているか、だ。


  それに、四天王という強力な神器を持った存在がその王国に顕現していたとしても、戦略や、人材に長けたリトアニア王国に負けるのは目に見えているだろう。

  ましてや逆に勝負を挑まれれば、一瞬で壊滅されることは間違いなしだ。


  そのうち、攻めても無駄ということに気づき、内政に力を入れて数年間は戦争はないだろう。


「さて、明日も訓練だ、全てを知る為には強くなるしかない…戻るか」


  そう呟くと、元王は先程ダッシュしすぎてパンクした足を庇いながら師の元へ戻っていった。





 小屋に戻る頃には空も真っ黄色に染まっていた。

 一方アーサーの脚は疲れ切って鉛のように重くなっていた。


 本当に体力がない。これから体力は徹底的に付けて行くべきだ。


「ん、クレム先生まだ帰っていないのか」


 小屋は無人だった。

 アーサーは水を飲み喉を潤す。


 アーサーはふと飲用水を見る。

 綺麗な水だ。この付近には川でも流れているのだろうか。

 これは先ほど渡った道を見て分かったことだが、今は春だ。

 春に咲く花が咲いていた。


 夏もすぐに来るだろう。

 ジーク達に聞けば川の一つも見つかるかもしれない。夏はそこで鍛錬出来たらと考える。


 ——魚が食べたい。


 それがアーサーの本音だった。

 アーサー、いやかのザムンクレム元王は魚が大好きなのだ。

 川さえあれば。

 明日にでも探そう。


 魚の味を思い出したせいか腹の虫が鳴く。

 その音を聞き、アーサーは苦笑する。


 今のは少し子どもっぽかったな、と。


 そういえば、とクレムの荷物の方へ視線をやる。

 そこには一式の鉄の鎧があった。

 重装騎士がするような重々しくも威圧があるタイプではない。寧ろ胴や間接部を守る軽いタイプだ。

 クレムの身のこなしはいつも軽やかだ。しかしその気になれば、走る馬車と並ぶくらいの速度を出せそうな気配がある。

 あの騎士は敏捷なタイプの武人なのだ。


 と、そこでバンとドアが乱暴に開かれる。

 すわ敵襲か、とアーサーは条件反射で椅子を蹴り小屋の入り口から距離を取る。

 だがその行動は杞憂に終わる。


「なんだクレムか」


 そこには血相を変えて何かを背負ったクレムが立っていた。

 否、それは誤りであった。

 クレムはそそくさと己の寝床に近付き、背負っているものをそこに下ろす。


「アーサー! 水と布を頼む!」


 一瞬戸惑ってしまったが、どうやら緊急事態らしい。アーサーは急ぎコップ一杯の水と、台所にあった湿った布を焦るクレムへと渡す。


「クレム先生、」


「女の子だ。道端で女の子が倒れていたんだ」


 何が起こったかを聞こうとしたところ、言い終わる前に解答が帰ってきた。

 道端で女の子。

 いきなり過ぎる展開だ。アーサーの頭はあまり追いついていない。


 アーサーが呆然としている間に、濡らした布を女子の額へ置くクレムは状況を確認するためか、アーサーに状況を伝えるためか言う。


「この女の子。村から出て一時間のところで倒れていたんだ。触れば分かるだろうが、高熱で倒れたと思われる」


 状況を説明され、アーサーはクレムのベッドで横たわる少女を見やる。

 夜の空を思わせる暗い青色の髪をした少女だ。

 苦痛で顔を顰めたその顔は特別可愛いという程ではないが、整っている。だが頬は紅潮し、口からは荒い息を吐いている。


 アーサーは体温を測る為、少女の首へと手を伸ばす。

 烈火の如く熱い。クレムの言う通り高熱だ。

 アーサーの手を熱い手が包む。

 見ると少女が薄く目を開いてこちらを見ていた。

 未だに息は荒い。だがそれでもこちらを見やる少女の目線には、助けを求めるようなものを感じた。


「助けよう」


 自然と口から出たのは慈悲の一声。

 アーサーは自分の手を覆う熱い少女の手を両手で握り、クレムへ目線をやる。


「そうだな。お粥と晩飯をつくる。アーサーは彼女の世話をしていてくれ」


「分かった」


 再び少女の方を見る。

 薄く開いてた目はまた閉じられている。

 だがその表情は幾らか安心している者の目であった。

 気のせいか、握る手から握り返される感触を受ける。


 よく分からないが今は少女を助けなければならない。

 どうしてか分からないが、アーサーはそんな事ばっかり考えていた。



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 少女の正体は?!

 気になる続きはhttp://kuhaku062.hatenablog.com/にて!