影の呟き

影さんの小説を主に飾るブログです。

『零影小説合作』第十話〝険悪と成長の日々〟

 どうやら私はフラグや伏線を描写に入れるというのが苦手なようです。
 これから鍛えていかなければ。

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 あれから三週間という日が流れた。

 合宿は終わり、それからも厳しい鍛錬の日々。

 それを見事に耐え抜いたジーク達の顔は、しっかりと引き締まり、一流の騎士と言っても過言ではないほどたくましくなっていた。

 太陽がギラギラと日光を照らし続ける昼間。

 クレム先生の家に一回立ち寄り、村の門の近くで送ることに決めた。

 見送り際、少年兵団にゆく三人と、アーサー、エノ、クレムの三人が向かい合う形で別れを告げる。

「クレム先生。アーサー、エノ。今までお世話になりました」

 ジークがそう発して頭を下げると、バルハとアークも同時に頭を下げた。

「ちゃんと、親御さんにも最後の挨拶はしていってよ?」

「あぁ、勿論!!」

 そう、バルハが和かな笑顔を浮かべアーサー達を見る。

「お前ら、本当にその笑顔だけは魅力的だな」

 そんなことをアーサーは冗談混じりにいう。

「私はまだ緩慢だが、お前らはもう騎士だ。私の分まで頑張ってくれよ」 

「あぁ! 当たり前だ! お前の分まで立派な騎士になって! アーサーの歯茎をガタガタ言わせてやる!」

 アーサーは微笑を浮かべる。

 今まで見てきた中で一番に清々しく、威厳あった顔が一変し、いかにも少年らしい顔だった。

「どういう表現だよ」

 そう言っているうちに、この尊い時間も遂に終わりを告げた。 

 時とは早く、残酷なものだとアーサーは悟った。

「さぁ、時間だよ。少年兵団の募集場所は分かるね?」

「はい! じゃ! 行ってくる!!」

 そう、元気よくジーク達は返事をし、背中に振り返り村の門を出て行こうとした時であった。

「ま! 待ってくれ!!!」

 アーサーの足は自然と前に出て、気づけば三人を追いかけていた。

「アーサー! どうしたんだよ!?」

「これ、これを持って行ってくれないか?」

 それは小さな小さな木刀の破片だった。

 これは、クレム先生から木刀の作り方を学び、作製したものであった。

 まだ初歩中の初歩をクリアしたばかりのものでもあり、少し剣の先端歪んでいる。

 それを折って、友情の証、というのは言い過ぎかもしれないがその様な感じのものであった。

「お前に、受け取ってほしい。辛くてもこれを見てクレム先生や私、そしてエノを思い出してほしい。バルハやアールも」

 そういうと三人に手渡しで渡した。

「ありがとうな!!」

「すまないな、アーサー」

 二人はそう言って貰った。

 だが、ジークは無言だった。

 悲しみを堪えているのか、はたまたお礼はいいたくないのか、複雑だが問い詰めるのはやめる。

「さぁ! 三人共! 行ってこい!」

『おう!!』

 猛々しい声を三人同時に上げると、また道を歩き出した。

 その歩みは別れの悲しみではなく、次に向けて前へ突き進もうという勇猛な心が直感的に伝わる。

 ーーお前は、外の世界を知りたくないのか?
 村を出て行く三人の背中を見ているとジークの言った言葉が淡々と脳裏に蘇った。

「外の世界、か」

 アーサーは、何故か今までシャンとしていたのに、意気消沈してしまう。

 ーーあいつは、なにを思って私にそう語りかけたのだろう。

 普通に考えれば、そんなこと直ぐに分かるはずだ。

 だが、今回だけは虚しいのか悲しいのか思考が安定しない。

 だが、ここでこの悲しみに暮れている時間はない。

 単純に言えば、猶予や余裕がないのだ。

 この後の二年。

 自らは、どのような険しい道を歩むのかは分からない。

 変わったのだ。

 何もかも前世の失敗まで、上手くいっていた王国の時代とは違う。

 アーサーは強い覚悟をした。

 目的を真っ当するならば、どんな蛇の道でも進み悪を正当化しようとも運命づけられた必然をも超越する覚悟を。




 翌日、ジーク達は予定通りビルンデークに着いていた。
 同行者は居ない。ジーク、バルハ、アールの三名だ。

 ジークは三人の先頭に立ってビルンデークの城門を見上げていた。
 友にしてライバルであったアーサーに渡された、『お守り』を片手で握り締めながら。

 ——アーサー。ここから俺の人生は変わる。次会った時にお互いどんな感じで顔を合わせるのか、楽しみだぜ。

 その心の呟きをした後、ジーク達はビルンデークの広場へと足を進めた。

「変わる前から楽しみにしててもしょうがないけどな!」

 そんな言葉を残して。


 時間の針を回してあのジーク達少年が村を去って約一年が経つ。

 あれからアーサーは己を強化するのに幾分か真剣になり、取り組んでいた。
 十四歳になり身体は大人になろうと、日々成長を進めていた。
 身体中の筋肉はバランス良く鍛えられ、ネックとなっていた体力もついていた 。

 アーサーが鍛えている中、エノも成長期から第二次性徴が育ち始め、数段女らしさを増し始めていた。
 クレム先生が連れてきたという馬で乗馬の訓練をしたお蔭か、身体全体は引き締まっていた。

 二人はこの一年、鍛錬と並行して教養も身につけていた。
 読み書き、暗算、基礎知識、作法、儀礼、戦闘知識、周辺国の歴史、世界情勢、レトアニア王国の地理。
 二人はそれらを身につけてきた。

「アーサー〜」

 エノも小屋に来た当初より、円滑に話すようになっていた。
 ハキハキと喋るようになったことにより、声も明確に聴き取ることができるようなった。
 彼女のソプラノの声は美しい。

「ねえー。アーサーってばー」

 エノはアーサーの腕を抱き、しつこく彼の名前を繰り返し口に出す。
 第二次性徴が発達し始めているので、腕には少し柔らかい感触があり、その温もりはアーサーの心を乱す。

 そこでアーサーは閉じていた目を開き、

「ええい、エノ。私は現在瞑想中だ。頼むから静かにしてくれ」

 エノに注意を飛ばす。
 その声も転生した日より低くなっており、男らしさがあった。

 昼下がりの草原の上で、アーサーは日課の瞑想をしていたのだ。
 胡坐をかき、目を閉じ、心を静め、無心になり、想念を集中させていた。
 今回はクレム先生との模擬戦で、どう彼を切り崩すかを考えていた。

 最近になって、クレム先生との模擬戦で彼から白星を取ることができるようになっていた。
 十戦の内一勝程度ではあるが、だが確実に成長していると言えた。

『ジークより数段下回るが、剣の才能が君にはあるようだ。それに敏捷性、危機感知も良くなっている。君は良い弟子だよ』

 とはクレム先生の言である。
 アーサーには生前の記憶が不完全ながらも残っており、その中には戦闘経験で授かった知識もあった。
 身体が着々と大人に近付いているのであれば、その分だけ前世の動きを再現することが可能になって行く。

「私と瞑想。どっちが大事なの?」

 エノは頬を膨らませ不機嫌そうに、しかし可愛らしく睨みながらそう言い放った。
 その言動のアーサーは困ったように眉毛を八の字にし、頬を指先で掻きながらエノの質問に答える。

「いや、それは確かにエノなのだが。逆に聞くが、エノの用は私の瞑想を邪魔するほどの大事なことなのか?」

 アーサーの解答と質問を返されたエノは、彼の物言いが気に入らないのか不機嫌そうに目を逸らした。

「少し遊びたいと思っただけなのにっ」

 エノはそう、小声で呟いた。
 アーサーの聴力は常人より数段優れており、エノの小声をも拾うことができる中々の地獄耳の持ち主であった。
 アーサーはエノのその呟きに苦笑し、

「なら少し、二人で怠惰に耽るとするか」

 アーサーはエノに向け提案し、返答よりも先に青い絨毯の上に金髪の頭を預ける。
 エノはその様子を数秒見つめ、彼の隣で伸びた美しい青髪を草原の大地に投げ出した。

「ジーク達、今頃どうしてるかな」

 エノは脳裏に、アーサーの友であった白髪の少年の顔を朧げに浮かべながら、尋ねる様に口走る。

「あいつらの事だ。上手くやって居るのだろう。音沙汰無いのは元気にやっている印さ」

 アーサーはそう、エノの蒼い瞳を見つめながら言った。
 あれからジーク達に関する噂などは一切聞かない。ここが辺境の村であるから、どこか大きな街にでも行けば或いは彼らに関する情報を聞くことも可能だろうが、アーサーは現時点では街に行くことは許されていない。

 理由としてはクレム先生曰く「君の金髪は目立つ。今だから言うが金髪は貴族に多いんだ」とのことである。
 つまり高貴な存在に見られて拉致される危険性もあるのだ。
 現在のアーサーならば、其処いらの人間程度なら物の数ではないのだが、どちらにせよ街で戦闘行為を行えば目立つのである。
 その様な事態は回避すべきなのだ。

「またいつか、前みたいに笑い合いたいね」

「そうだな……」

 エノの言葉に、今度は肯定を飛ばす。

 やがて、二人は暖かい春の陽気に包まれ微睡み始めるのであった。


 ——アーサーは知らない。これから彼の身に訪れる悲劇の連続を。

 ——エノは知らない。これから彼女の身を迎え入れる絶望の連鎖を。

 彼らは、まだ知らなかった。


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 一章終了です!
 次章から物語が動きますよぉ⤴︎

 次章も同じくゼロ君と私でお送りしますので、ゼロ君のブログhttp://kuhaku062.hatenablog.com/共々これからも宜しくお願いします!