影の呟き

影さんの小説を主に飾るブログです。

『ナイツロード 外伝 -音女の騎士、殲滅の剣士-』前編

 ※注意※
 このお話は二次創作であり、原作者は『うまそうす騎士丼す』氏です。原作には登場しない、或いは原作には存在しない設定(人物や地名、組織など)が登場するのでそういったものが苦手という方は閲覧をご遠慮ください。


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 異歴九十八年初夏、舞台はリーベルタース北部に存在する人口五百万人にも上る大都市、『ガリュメラ』である。

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 私(わたくし)は現在、リーベルタース北部に存在する大都市『ガリュメラ』の入り口に来ていた。

「ここが、世界中の様々な文化が入り混じってる場所、リーベルタースの大都市ですか」

 私は目の前に広がる光景を眺めた。
 流石、リーベルタースの大都市と言ったところか。様々な外見をした人々が忙しなく列を作って整備された大通りの上を歩いている。建物は石材と木材、どちらも見かける。
 人間は勿論、魔族、獣人。商人に傭兵や旅人、衛兵に市民。本当に様々な人種の姿が見受けられる。
 色んな場所から己の品を売り付ける商人の声や、ぶつかったぶつかってないで喧嘩を始める傭兵や旅人の怒声や、そこにやいのやいのと野次を飛ばす市民、そこに駆け付け喧嘩を止める衛兵の怒声。など。
 リーベルタースの街はどこも活気が溢れていて、五月蝿いものである。

 と、後ろからこちらへ向かってくる足音が聞こえる。歩く間隔と音の大きさからして一般男性の様だ。

「よう、兄さん。ここに来るのは初めてなんで?」

 背後に来た青年が話し掛けてきた。
 そこら辺にいる市民と同じ様な格好をした十六、七歳の一般的な青年である。筋肉質でもなく、太っても痩せてもいない。普通を体現した様な容姿だ。
 体格からして戦闘の心得を持たない一般人。私は瞬時にそう悟った。

「ええ。謎の魔物討伐作戦の人員募集の話を聞き付けまして」
「その声……女の人か。こりゃあ失礼した」

 青年は苦笑し、己の間違いを詫びる。
 間違えるのも無理はないだろう。私は男物の服を着ている。身長や体型からも女と気付くは難しい筈だ。
 旅の途中、何回も間違えられたので私はその反応に慣れていた。
 私の容姿は中性的であると自覚している。好き好んでこの格好をしている訳だが。
 
「にしても謎の魔物討伐の参加希望者か。それならこのまま大通りを真っ直ぐ行った先に緑の屋根をしたでっかい建物がある。そこで手続きが出来る筈だぜ。装備とか揃えたいなら、俺が良い店を紹介するが?」
「ああ、いえ。装備は揃ってますし。遠慮しておきます。これ、情報代です」

 私は青年に情報代として硬貨二枚を与え、大通りを歩く。
 どうせ案内をしてもらっても追加で料金を払わなければならない。或いは宿屋を紹介すると言って適当な宿に連れ込み、そのまま私の体を目的とし襲ってくるか。この体格の女を犯したいと思う痴漢は変態と言える。
 私の実力なら返り討ちに出来るだろう。私より強い者はそれこそ力尽くで襲えば良いのだから。外道のすることである。
 そういう手合いの者は放浪の旅で何度も見てきている。
 案の定、青年は入り口の門周辺に戻って行った。

 私は日が高いところにある内に宿屋を探すことにした。
 宿屋とはどの街、どの都市にも存在し、大体は街の外側に建っている。
 街に着いたら兎に角宿屋を探す。旅の経験で最初に宿屋を探さないと後にどうなるかを私は知っている。
 旅で疲れた体を休められない。日が暮れてから宿屋を探せば、真面な宿屋は満室で碌な宿屋で体を休められない。
 旅に出た当初は何度も悩まされた。街の外で野宿したことも数回ある。

 大通りを数分進んだところで香ばしい料理の香りが空腹感を誘う。
 匂いの先にある建物を眺める。

「『白の聖獣亭』……」

 入り口の側には白い大型犬が興味あり気に此方を見つめていた。
 可愛らしかったので近付いて頭を撫でてやったら短くカールした尻尾をパタパタと踊らせ、「ワン」と一度鳴いた。可愛い。宿はここにしよう。

 私が扉を開くと扉に掛けてあったベルの音がリン、と音を立てた。ベルの音を聴きつけたのであろう店員と思われる十代後半の女性が小走りで駆け寄ってくる。

「いらっしゃいませ。食事ですか? それとも宿をとりますか?」
「宿をとります。ですが先に食事にしたいですね」
「あー、畏まりましたー。ではあの窓際の席に座っていてください。御注文は後ほど聞きに行きますので」

 そう言って台所へ向かっていった。

 「ねー聞いてー。あの赤い服の人。イケメンの男キター! って思ったら女の人だったよー」と他の店員と話しているのが聞こえる。よくあることだ。
 私は案内された席に着き、周りを見渡す。
 成る程。中々繁盛している様だ。料理に期待しよう。

 数分後、注文を取りに来た店員に注文をし、食事を取った。お昼なので肉を中心にしてみた。独特の旨味のあるソースが舌を撫でて美味しかった。オリジナルのソースなんだろう。繁盛するのもよく分かるものだ。
 珈琲を飲んで落ち着いた後、お代を払うのと宿をとる為にカウンターに行く。
 お代を払って美味しかったと感想を述べると、顔を赤らめ「有難うございます」と返された。
 ……まあ。まあ。こういうのも時々ある。
 そのまま一人部屋で取り敢えず一週間分を払い、宿をとった。
 荷物を置いて謎の魔物討伐の参加希望手続きをとるとしよう。

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 私は入り口で紹介された通り、大通りの先を行き緑色の屋根の大きな建物の中に来ていた。
 ここはどうやら衛兵の詰め所(つめしょ)の様でここで受付をしている様だ。結構な列が出来ていたので最後尾に並ぶ。
 列に並ぶ者達を観察してみる。
 所々破れたローブを着込んだ者や、錆気味のポイントアーマーを身につけ腰に長剣を刺した者、珍しいのでは魔導杖を持った魔法使いと思われる者もいた。
 今回行われる討伐戦の対象は大型の魔物と聞いている。火力の高い能力者や魔法使いは今回の討伐戦で重宝されるだろう。

 体感的に一時間が経ったくらいで私の番が漸く来たようだ。

「名前と職業、所属、年齢、得物。それとある場合だが、超能力か得意とする魔法をこの紙に書いておいてくれ」

 ◯
 名前:フィリアス・ミューレイド
 職業:放浪騎士
 所属:無し
 年齢:十九歳
 得物:魔道細剣(支援系魔法中心)
 能力:生じた音の場所、物、発生を感知する

 渡された紙を記入し提出する。

「フィリアス……聞いたことあるな。武器の細剣が音の魔法を帯びていて強力な攻撃やサポートが可能。中性的な容姿をした女放浪騎士……確か『音女騎士(おとめきし)』って二つ名を持っていたか。特徴も一致してるし、本人さんか?」

「はい。未熟ながらも」
「おいおい、そこで謙遜するのとは。増長もしない。こいつは頼もしいな。これは上も喜ばれるだろうな」
「それは、嬉しいですね」

「おう。二日後の朝、作戦説明会を開くのでこの詰め所の裏にある広場にこの切符を持って来るんだ。作戦開始はその翌日だ。必ず来るように。以上で手続き終了だ」
「承知しました」

 どうやら私の名前を知られていたようだ。二年前にリーベルタースへ来て、色んな依頼や作戦に参加している内に『音女騎士』なんて二つ名で呼ばれる様になってしまった。
 ともあれ手続きは完了した。が、まだ外は明るい。消耗品などの買い物や情報収集をしてから宿に戻ろう。
 渡された切符を左の胸ポケットに入れ、私は詰め所を出た。

 大通りは相変わらず人が多いし、騒がしい。
 私は詰め所へ行く途中で見つけた雑貨屋に向かった。
 『りくらか天業』と大きな文字が書かれた赤い看板が特徴的な二階建ての建物だ。

 私は絆創膏三箱と傷を治す薬草二束、それと魔物の素材を採る為の短剣、そして三日分の非常食を買っておいた。緊急時に対応出来る様にだ。
 自前の袋に入れてもらい、外へ出る。
 それにしても面白い玩具が売られていた。逃げる箒の玩具や、戦う一組の掌に乗る大きさをした人形。気が向いたらまた来よう。

 次に私が向かったのは喫茶店だ。一般の傭兵などは武器や装備を揃えるためにまだ買物をしなければ行けないだろうが、私の戦闘スタイル的に金属の鎧は合わない。一応革の防具を服の下に着込んでいるが、一つ前の街で買ったばかりなのでまだ新品だ。予備もあるし買う必要も無いだろう。

 私が喫茶店に来た理由だが、休憩もあるし耳を立てて噂を聞く為でもある。
 私の聴力は一般の人間より少し高く、三人ほど同時に喋っても三人の喋った内容を理解する能力もある。盗聴するのは一端の騎士として気が引けるが、この二年間で情報収集の重要さも理解したつもりである。背に腹はかえられない。

 こういう人が集まるところでは自然と此処らの噂が集まるので、ここら辺の情報を簡単に聞くことができる。酒場に行った方が討伐作戦での情報を得やすいのだろうが、あそこでは逆に騒がしすぎるし酒臭い。市民の噂を聞くにも喫茶店がうってつけなのだ。

 私は『陰陽豆の喫茶店』というよく分からない店名の喫茶店に入った。そこそこ客も来ている。
 取り敢えずカウンターに座り、お勧めの珈琲と砂糖をまぶした中にクリームの入ったパン、『ドーナッツ』というのを注文する。すぐに珈琲が出されたのでまずは香りを楽しむ。中々に香ばしい。
 母国に居た頃、若くして百騎士長になった兄様は珈琲を飲む時は毎回「珈琲は匂いを楽しんでから一気飲みするものである」と言う。その度に姉様が「香りを楽しんでからでしょう。あと一気飲みするのは兄様だけです」と言っていたのも思い出す。
 私の家系は騎士の家系で、代々珈琲好きの家系としても有名だった。一日八杯が普通だと思っていたが、外の世界に触れて一日八杯は流石に多いなと思ったくらいには珈琲好きの家族だった。今は一日一、二杯飲めれば充分だと思っている。

 そうやって思い出に浸りながら珈琲を飲んでいるとある噂話が耳に入る。

「──そういえばよ、知ってるか? 今回の討伐作戦にあの傭兵団が来るらしいぜ」
「あの傭兵団だあ? 悪名高い『アッパーヌード傭兵団』とかじゃねえだろうな?」
「違ぇよ。あの『ナイツロード』らしいぜ」
「うおぅ、マジかよ」

 数々の能力者や技術者を集めた業界で有名な傭兵組織、『ナイツロード』。
 私はその傭兵団を知っていた。国家が立案した大規模作戦で何度か鉢合わせたりした。私が見たところ本当に優秀な様で、一般的な傭兵より余程優秀な人材が多い。
 私も何度かスカウトされたことがある。あるが、私には騎士としての誇りがあり、とても傭兵などには成り下がれない。母国を離れた今でも私には騎士としての矜持があるのだ。

「しかも聞いた話だと『石鹸』だか『石棺』だか知らねーがすんげえ剣士も来ているらしいぜ」
「ハッハ! んだよその二つ名! ツボるわ!」

 私も『石鹸』や『石棺』という二つ名を持つ剣士は聞いたことはない。所詮噂の範囲だ。
 だが『ナイツロード』が来ているのは本当だろう。あの傭兵団は今回みたいな「謎の魔物」や「謎の魔族」などが関わっている作戦には必ずと言っても良いほど参加している傾向がある。これはスカウトされた時に集めた情報にあった。
 大方、珍しい素材を使って独自兵器などに用いるのだろう。なんで傭兵団が、と毎回疑問に思うことだ。飽く迄噂の範疇の話ではあるのだが。
 そして高名な剣士が来ているという噂。此方は信じられるか微妙なところだが、もしかしたら今回の討伐対象は『大物』かもしれない。帰る途中に余分に薬草を買い占めておかなければ。
 後は、有名な魔術師『鉄杭のガシュア』も参戦しているだの、先日唐突に赤い箱を背負った黒髪の幼女が現れ恐らく来訪人だろう、とそこまで気になる噂は聞けなかった。

 私はお代を出して喫茶店を後にする。

 空はすっかり茜色になっていて夜を迎えようとしていた。大通りも仕事帰りの者や夜遊びに出る者達で賑わっていた。宿屋の晩御飯はもう少し後だろう。丁度良い時間だ。
 私は先程の雑貨屋、確か『りくらか天業』だったか。そこで薬草を買った。
 『白の聖獣亭』に着く頃には夜になっていた。白い聖獣様も心なしか眠そうだ。

 夕食は野菜を中心に食べた。特製ドレッシングが美味しく、鶏肉と一緒に食べてもさっぱりした味だ。
 夜は腹八分目。それが私のルールだ。

 この都市には『銭湯』なるものがあるそうで銭湯で体を清め、宿屋に戻り休んだ。

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 二日後の討伐作戦の説明会当日の早朝。私は詰め所の裏の広場の中心で待機していた。昨日、一昨日は鍛錬に明け暮れていた。
 予定の時間までまだ一、二時間くらいあるので来ているのは私だけかと思っていたが、意外と人が来ていた。

「これはこれは、貴女は噂の『音女騎士』殿ですよな」

 周囲の人達を観察していたら、緑色の髪をオールバックにし、暗い灰色のローブを着た長身の男性に話し掛けられた。見た目としては三十代後半といったところか。体型としては少し痩せていると言ったところだろうか。全盛期の魔法使い──いや、魔術師の容姿だ。

「我はガシュア・メーラトスと申す。『鉄杭のガシュア』と言えば分かるだろう」
「どうも。フィリアス・ミューレイドです。貴方の噂は聞き及んでいます。メーラトス殿」

 『鉄杭』の名は昨日聞いたばかりだ。リーベルタース北部で有名な魔術師で、二つ名通り鉄の杭を高速で飛ばし相手を貫くのが得意な男と聞いている。

「ふっふ、やはり『音女騎士』本人でしたか。前々からお目にかかりたいと思っていたところだ。今回の討伐作戦に参加するという噂は如何やら事実だった様で。なるほど、噂通りの麗人だ」
「ありがとうございます。貴方もこの討伐作戦に?」
「ええ。偶然この都市に来ていたところ、依頼を請けましてな。いやはや近頃はこういう手合いの依頼が多くてですな。狙撃するだけで懐が潤うので良いのですがこうも依頼が多いですと、流石に疲労が溜まるというもの。して、『音女騎士』殿はどういう経緯でこの作戦に?」

 そして噂通りよく喋る御仁だ。声音という名の機関銃弾の雨が、私の聴覚を的確に撃ち抜く。これが最近此処らの流行語にあるマシンガントークというものか。耳障りなものだ。
 そんな本心を私は呑み込み質問に答える。

「私は希望しての参加ですね。旅費稼ぎの為に」

 旅費は充分あるが、金というものはあるだけ無駄にならないものだ。母国に戻った時に家族を驚かしたいというのもある。後は私自身の財産か。十年後には結婚するだろうし、子孫の為にも金はあった方が良いのだ。
 私の返答に何を思ったのかメーラトス殿はイヤらしく笑みを浮かべた。

「『音女騎士』殿ともあろうものが、ハッ! 自ら参加しに来るとは。所詮は珍しい玩具を持った女子(おなご)と言ったところか! 体も良ければ男も寄って来たであろうに。不幸な騎士ちゃまよ。滑稽こっ──」

「レイピアは騎士の意志であり、私は誇り高き騎士の家系『ミューレイド家』の一が騎士だ。私のことを侮辱するのは自由だが、私の騎士としての誇りを穢すな。私に騎士の地位を下さったシエラーダ国王陛下に無礼を働く気か! 私はこのなりでも騎士の端くれ。貴方に謝罪を要求する。さもなくば……」
「分かった! すまなかった! だからそのレイピアを下ろせ!」

 実際にはそこまで怒ってはいない。だがこういう振る舞いをしなければ騎士とはいえ、私は女である。なめられることが多い。なのでこういう演技もしなければならない。
 メーラトスが謝罪をしたので彼の首に向けていたレイピアを下ろし鞘に収める。
 演技とはいえ、強めに威圧したのでメーラトスは腰を抜かす。

「今の発言は無かったことにしましょう。今回の作戦、お互い頑張りましょう」
「あ、ああ」

 手を差し出すと、おずおずと手を握ってきたので立ち上がらせる。中々軽い。
 「ではご機嫌よう」と挨拶をして去った後、私はお手洗いで入念に手を洗って広場の端にあったベンチに座る。メーラトスは何がしたかったのだろうか。
 すると今度は銀の鎧を纏った騎士風の人物が近付いてくる。兜をしていないので顔が分かる。夜の海を思わせる暗い青色の髪をした美形で長身の男性だ。二十代後半と思われる。

「やあ。君だよね、先程騒ぎを起こしたのは。『音女騎士』なんだって?」
「これはこれは。お恥ずかしいところお見せしました。フィリアス・ミューレイドと申します。巷ではそう呼ばれていますね」
「おっと、申し遅れたね。僕はガリエル・ガリウス・マングロッダって名前だ。一応、ここのしがない衛兵さ。さっきも止めようと思ったんだけど、何気に早く収まったようだからやめたんだけどさ」

 ミドルネーム持ち。それなりの地位がありそうだ。しがない衛兵と言っていたが装備している鎧も上質な金属で出来ているようであるし、歩き方も様になっていた。さっきの騒ぎでもその気になればすぐに間に入れただろう。様子を見ていたのだろうか。
 その冷静さからも只者じゃないことが分かる。恐らく私のことも知っているのだろう。会話を続ける。

「それはそれは、ご迷惑をおかけしました」
「いやいや、あれくらいは大丈夫さ。君も大変だね」
「いえ、こういうものは定期的に起こることです。私も女ですし仕方がありません」
「そっかそっか。良ければこれ食べるかい? 朝一に来たみたいだし、朝食もとってないだろう」

 マングロッダ殿が自然に私の隣に座り、手袋を脱いでティッシュで包まれたサンドウィッチを差し出してる。確かに朝食はまだとっていない。まだ食堂の営業時間では無かったのだ。作戦発表の後に取ろうとしていたが丁度良い。小腹が空いたところだ。

「お気遣い有難うございます。御言葉に甘えさせてもらいましょう」
「はは、いいさこれくらい。君みたいな素直な女性は好きだよ」

 思わずマングロッダ殿の顔を見てしまった。微笑んでいる。
 もしかして私を口説いているのだろうか。
 ……そんなこともないか、と食を進める。

 丁度食べ終わったくらいに広場の中央から号令が響き渡った。

「作戦説明会の参加者の者たちよ! 集まれ!」

「ん、じゃあ行こっか。フィリアスさん」
「そうですね」

 私はマングロッダ殿と共に広場の中心に向かった。途中、彼は「僕はあっちだね。また後で話そう」と言って去っていった。別にこの後予定がある訳ではないが、また後でと言われても、流石に急だ。今日も鍛錬でもしようと思っていたのに。
 集まりの外側に立つ。見たところ参加者は二百から三百と言ったところか。この都市の兵も動くそうだから総勢四百から五百人が良いところだろう。
 参加者達は騒いでいるが、号令台に立つ歴戦を思わせる鎧を纏った鼠色の髪をした偉丈夫が「静粛に」と一喝すると、まるでここには空気しか存在しませんと言わんばかりに静まる。怒鳴る程でもなかったが、はっきりとした声音だ。指揮官タイプの人間なのだろう。

「これより謎の魔物討伐作戦、作戦説明会を行う」

『応ッ!』

 参加者達が返事をする。中々やる気がある様でなによりだ。

「まずは我輩の自己紹介からだな。我輩はクォッサ・メイラ・メイクトリュンフ大将だ。今回の討伐作戦の総責任者である」

 参加者達がザワザワと騒がしくなる。
 無理もない。『メイクトリュンフ』と言えば『大勝利を招く』と言われる代々猛将を輩出してきた名門の家だ。リーベルタース北方ではかなり有名と言われている。私もその噂は聞いたことがある。

「静粛に。そして此奴が副官のガリエル=ガリウス=マングロッダだ」

 しがない衛兵と言っていたが、やはり高い地位の者だったか。
 メイクトリュンフ殿の側に控える。

「次に、参加する組織を紹介する。始めに我が衛兵隊三百人。次に傭兵団の──」

 なるほど。ここにいる参加者以外にも参加する組織が居るということか。傭兵団などが紹介されていく。
 それぞれ数十人単位での参加だそうだ。

「──後は傭兵団『ナイツロード』の者にも参加してもらうことになった。こちらは我々が直接依頼を出したものだ。参加人数は十二人。少ないと思われるかもしれないが、精鋭の者達だそうだ。そして諸君ら二百人弱と、合計で約六百人だ」

 『ナイツロード』……噂は本当だった様だ。十二人の精鋭の参加か。どんな者達が来ているのやら。『ナイツロード』は変人が多いと聞く。あんまり関わりたくないものだ。

「この度の討伐作戦の討伐の対象の情報だ。一週間前に偵察隊を出したところ、七つのアナコンダの頭を持ち、六足の象の様な胴体持っている複合生物個体というのが分かった。体長は十から二十mと予測される。我々はこの個体に『ハイメラ』と呼称している。マングロッダ副官、図を」

 マングロッダ殿が図を掲げる。メイクトリュンフ殿が言った特徴通りの容姿をしている様だ。中々に悍ましい。複合生物個体……キメラというからには人工的な生物ということになる。こんな生物を生み出すとはかなり悪趣味だ。そしてこんな危険な生物を生み出したのは一体何処の誰……何処の組織なのだろうか。これに関しては『ガリュメラ』側の仕事になるのだろう。

「事前に知らされていた情報によると、『ガリュメラ』の北部に存在する『ガリュメラ森林』を縄張りとし、周辺の村の狩人が偶然目撃したそうだ。その情報を元に探索して得た情報はさっき出したものだ。生物感知能力を持ち、生物を感知したと同時に捕食するらしい。偵察隊にも五人の死者と十六人の負傷者が出た。死者の中、四人が捕食され一人はその鱗に触れた後、身体中の皮膚が黒に変色し死亡が確認されたそうだ。遺体を調べたところ、毒ではなく魔法、或いは固有能力的な要因で亡くなったらしい」

 中々厳しい。やはり大物だった様だ。

「こちらで建てた作戦を説明をする。マングロッダ副官、作戦図を」

 マングロッダ殿が謎の魔物……『ハイメラ』の図を下げ、別の図を掲げた。『ガリュメラ森林』の地図のようだ。森林の更に北は海になっている。

「これは『ガリュメラ森林』の地図だ。森林南部にある橙色の円が『ハイメラ』の縄張りと思われる範囲であり、これを危険地帯とする。半径七㎞とかなり広範囲だ」

 『ガリュメラ森林』の面積は六十㎢と言われている。

 メイクトリュンフ殿が赤いペンで×印を円の周りに五つ書いて行く。

「この赤い印の場所を出発地点とする。それぞれ約百十人ずつだ。主に攻撃を担当してもらう。そして残りの五十人には危険地帯に入ってもらい、『ハイメラ』をこの青い印の地点まで誘き出してもらう」

 メイクトリュンフ殿が青いペンで大きく×印を円の南に書く。

「要するに囮部隊だ。マングロッダ副官を隊長として配置する。感知や機動力に優れた者達を配置する。危険な部隊だが、その分報酬を上乗せする。生きて帰るように」

 実にシンプルな作戦だ。五十人の囮で危険地帯に入り『ハイメラ』を指定の場所まで誘い、攻撃要員で総攻撃する。私は恐らく囮部隊に配属されるだろう。
 無能力の戦士や剣士も囮部隊に配属されるのだろう。弓や銃、遠距離攻撃が可能な超能力者や魔法使いは攻撃部隊に配属されるのだろう。

「詰め所に諸君らの配置が書かれたものを貼っておくので必ず確認するように。報酬は三十万ジエルだ。活躍次第では勲章や特別報酬が与えられるだろう。諸君らの活躍に期待する。明日の早朝、北の門で集合だ。遅刻は待つがペナルティを要求する故出来るだけ急ぐように。以上だ。解散ッ!」

 参加者達が四方八方に散っていく。私も詰め所に寄って配置を確認してから宿屋に帰り、朝食を食べてから鍛錬に励むとしよう。囮部隊というからには機動力が命。

 作戦決行日まで都市周辺を走ろうか……。

 と、私はこの後の予定について考えながら詰め所に行き、配置が囮部隊の感知要員であることを確認してから『白の聖獣亭』に戻るのだった。
 何か忘れていた気がするが、忘れる様なことだ。そこまで重要ではないのだろう。



 To Be Continued……


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 後編出来てから公開しようと思ったのですが、全然捗らず放置し始めてはや二ヶ月。
 ここは敢えて公開して自分を追い込もうという算段です。

 後編早く書かないと……。