影の呟き

影さんの小説を主に飾るブログです。

『零影小説合作』第十一話〝理の糸口〟

 二章の始まりです。ゼロ君張り切り過ぎてゼロ君のパートがかなり長くなりました。
 それに比べて私のパートはかなり短くなりました。
 許してくださいなんでもしますか以下略。
 そういえばですが、二章に入りました。ということでサブタイトルが『○○の□□』という感じになります。一章では『○○と□□』でしたね。


 後日また一話から改訂版を投稿すると思いますので、よろしくお願いします。


 ではどうぞ。


□◽︎□◽︎



「もう、俺は」

 黒く煌めく双眸は、星が瞬く青と漆黒が混ざり合う混沌とした夜空を見つめる。

 ただ、時計の針が動く様に静かに泰然とし、白髪を優雅に揺らす。

 遠い、遠い存在のように感じる。

 宇宙の果て、もはや森羅万象に住む超越的な人物にも見えた。

 だが、何故であろうか。

 アーサーにとっては実に名残惜しいものがあった。

 しかし、なんとも騎士らしい体つきと装備であろうか。

 幾多の戦場を乗り越えた、百戦錬磨の屈強な戦士の様な威厳さだ。

 すると彼は振り返った。

 顔はよく見えないが、どれだけ浴びたのだろう、血潮がこびりついた痕がハッキリとみえる。
 血で出来た紅の涙を月の光に照らしながら、まるで捨て猫のような弱々しい声をあげた。

「すまない……」

 まるで遺言のようにそう呟いた彼は、自分と逆の方向を進んで行く。

「待ってくれ!! お前は!」

 そう言った瞬間、唐突に白い花弁のようなものが視界を、体全体を覆い尽くす感覚に陥った。

 夜空は純白に塗りたくられ、逆道を行く彼は、戸惑いも躊躇いも、全て放棄したかのようにその場を去って行く。

 だが、アーサーは手を伸ばし続けた。

 無理だと分かっていても、無駄な足掻きと知っていてもただ、ただ夢中に伸ばした。

「待ってくれ!!!」

 その一言で、アーサーの意識は覚醒した。


 小屋の天井に向かって一心不乱に、ただ無意識に手を伸ばしていた。

 まるで、剥奪された何かを取り戻そうとする、無力な者。

 そして、救世主になれなかった敗北者の様に。

「正夢……いや、まさかな」

 そう言って起き上がろうとすると、瞼から顎に向かってむず痒い感覚が襲った。

「今度はなんだ」

 溜息交じりに、頬からその道筋を辿ると冷たい感触があった。

 涙だ。

 涙など、ここに来てからアーサーは一度も流したことはなかった。

 ただ無性に、何に悲しんで流したかも分からない涙を苦笑しながら拭いた。

「こんな感情は、久しぶりだ」

 あれから、またもう二年という月日が流れた。

 アーサーの体型にはあまり特徴的な変貌は二年前と同じであまり挙げられない。

 だが、確実にあれからも修練を怠らず、切磋琢磨に鍛錬をした証がそこに備わり、いつの日か前世の王の時代のように、自信と動きが自然とこの体でも体現ができるようになっていた。

「アーサーっ! おはよー!!」

 後ろから活発強い声が聞こえたかと思うと、背中に軽い重圧がかかった。

 誰かは直ぐに分かる、エノだ。

 エノもあれから馬上訓練を続け、体は前よりか引き締まっているように見えた。

 背もさほど変わっていないように見えるが、二年前と比較すると伸びた方だ。

 しかも胸も少々膨らみが、最近増してきている。

「近い、近いから離れろ」

 背中に柔らかい感触が響き渡り、アーサーは誘惑されたかのように視界が開き冷静さを失ってゆく。

 ボッキュボンの体に、王の威厳をもってしても防ぐことはままならなかった。

 実害には影響はないが、叙情することが不可能なほどにアーサーの本能を蝕む。

「というよりエノ、何をしているのだ」

「えへへ〜、朝の挨拶〜」

 とても生意気な笑顔を浮かべて、エノは頬をまるで動物のように、アーサーの頬にくっ付けていた。

 相当気に入ってるのだろう。

 昔よりも、凛とした青髪を太陽に照らしつけてユラユラと優雅に揺らす姿は実に鮮烈だ。
 だがそれはいつものことであり、アーサーは毅然としていた。

「そういえば今日行くんでしょ? 首都に」

 そういうと突然頬を離し、エノは不安交じりの声でアーサーに質問を投げかけた。

「そうだな。まぁ、クレム先生が決めたことだ。完璧な勝利こそできなかったけど。大きな物を手に入れたから、充分だ」

 あれからもう一年の間、クレム先生は各々アーサーの成長っぷりに大きな関心を抱いていたようだった。

 剣技はジークにはそれこそ劣るが、その精確さと絶無な動き。

 それに体が大人に近づくばかりにできるようになった、前世の時代の剣捌きや飲み込みの速さなど。

 普通の少年にできない技術までも習得した。

『もう、アーサー君は王国に言ってもいい頃合いかねぇ。そろそろ本物の騎士を見て学ばないといけない時期なのかも』

 一週間前、クレム先生は何の躊躇もなく、言いのけた。

 と、いうことはアーサーはそれなりの力をつけることができ、先生にも認められるものを完成させたということだ。

 だが、アーサーは決してその言葉で慢心はしなかった。

「でもさ、アーサーも最近、なんか変な頭痛を起こすことも減ったよねー」

「そういえば、そうだな……」

 エノの言う通り、アーサーはあまり強い衝撃に駆られ、以前の様に前世の記憶が想起することはなく、落ち着いた暮らしを安泰に過ごすことができた。

 鍛錬にも勉学にもあまり無駄な思考を煽らせることなく、集中することができた。

 そのお陰で、先生にちゃんと認められたのだろう。

 だが、クレム先生はわざと関心などの態度や言葉を露骨にしないのか、こう言うばかりであった。

『それを決して拙劣させないようにすること』

 その言葉を言い続けて一年半。

 彼の見る目が唐突に変わったと言える。

『君にはやはり剣の通暁に関する知識が豊富なのかもしれないね』

 そして、クレム先生はアーサーには妙に打算的だ。

 ジーク達や他事については、中々な抽象的な考えを持つ傾向であり、身近な人や事柄があると見事なほどに斬新な発想で捉えて解決をしていた。

 一方のアーサーに対してクレム先生はまずは鍛錬の前に有益なことを考え出す。

 剣術や思考を昇華させる為の過激な訓練、そのおかげで無かった体力も自然についてきた。

 無駄に心配性な性格なのに、ここだけ尊敬ができる接点でもあった。

 ——クレム先生は一体何が目的なのだろうか。

 そんなことを思いながら布団から立ち上がると服を着替え始めた。

 いつものように平民と同じ服装だ。

 前の鍛錬で染み付いた汗が、洗ったはずなのにまだ残っている。

 エノが朝食を持ってきてくれた。

 それを食べ終わると、昨日纏めた荷物を持ち、外に出た。

 そして出迎えたのが、クレム先生といつもと景色が変わらないこの村、清々しい快晴の空だった。

「やぁ、準備はできたかい?」

「まさか、もう一週間後には出発とは。何か目的でもあるんですか?」

 王侯貴族の様な余韻を誇るクレム先生に対して、アーサーは一歩踏み出した。

 只者ではないことを承知で。

「ん? いや? 別にそんな変なことは考えてないよ? 君が、もうそれ相応の力を持っているのを認めた上での判断だ。イージーだろ?」

 何も隠す素振りを見せないクレム先生に、アーサーはホッと胸を撫で下ろし少し安堵した。

「そこで頼みがあるんだけどさ。エノちゃんも連れて行ってくれない?」

「え? ちょっと待ってください、まだ色々整ってないし、二人で行くなんて、それにエノは女の子ですよ?  私で守りきれるかどうか」

「大丈夫だよ。ちゃんと雨をしのげる家はもう作っておいた。はい地図」

 そう言われて小さな小さなボロ切れの紙を渡される。

「ってこれ、都市から完全に離れた場所じゃないですか。緑の丘の上の石造りの家? なんの物語ですか」

「いや、だってその方がロマンチックじゃない? 都市なんか丘越えれば二、三歩でつく程度だし大丈夫だよ。あまり人がこない場所に作ったし」

 気軽すぎる言葉に流石のアーサーでも骨が折れる。

 ならばと思うと、当然これから忙しくなる。

 色々と試行錯誤を重ねている途中、思わぬ発想の地雷が待ち構えていた。

 ——待て、一人の女と一つ屋根の下だと? もう危険な香りを漂わせてるではないか。

 ゴクリと唾を飲み、エノを見つめた。

 エノは不思議そうな顔をしてアーサーを見つめ返す。

 だが、空気を切り裂く勢いで左右に首を振って感情を誤魔化した。

「ここで考えている暇はないな。兎に角、新天地に向かわなければ」

 するとクレム先生も頷く。

「そうだね。でも、変な人と関わらないように、それと、君の様な金髪の子は目立つ。あまり大きな騒動を起こしたりしてはダメだよ?」

 まるで、実の親の様に注意を呼び掛ける。

 ——最後の最後までこの人は変わらんな。
 そう思って微笑を浮かべる。

 なにも変わらない、こんな日常を自分は何処かで求めていたのかもしれない。

 毎日が波乱だった前世の時代とはまるで別世界であり、一時の幸せに浸っていた。

 だが、それは終焉を迎える。

 またアーサーは踏み出すのだ。

 血と絶望がなり響き、最悪が渦巻く地獄の世界へ。

「そうだ! 君に、最後に贈り物をしよう!」

 急に何かを思いついたようにクレム先生は声を上げた。

 贈り物、というと普通に思い浮かぶのが、お守りなどの手軽いものだ。
 だが、前のように自らの自負心で成り立ったファッションセンスで適当に選んできた服、は有り得ないとは思うが、そんな有象無象なものを渡されても困るとアーサーは思った。

 しかしその心配は覆された。

「名前を授けるよ。だってアーサー君はこれまでアーサーの下の名前を名乗ったことがある?」

 言われてみればそうだ。

 転生を果たしてから、自分はアーサーという名を訳も分からず名乗ってきた。

 確かにそれだけでは少し物足りないような、何か違和感がある。

「言われてみればそうですね。名前はやはりちゃんとしたものが必要ですし」

「だろ? だから、昔の私の知人から貰った名前を君に授けよう」

 高貴そうな服を靡かせ、アーサーを強い意志が感じられる眼差しで見つめながら言った。

「アーサー・エグラベル。君はこれからそう名乗りなさい」

「アーサー・エグラベル

「この名前の意味は、偉大なる騎士や英雄、そして〝王〟という意味がある」

 そんな立派な名前を貰ってよいのか。

 第一、騎士の叙任さえしてない、しかもまだ、ただの剣先がよい子供には変わりはない。

 アーサーは少し遠慮を見せてしまう。

「ですが、そんな凄い名前、こんな私がもらってよいのですか?」

 と、遠慮のあまりどうでもいいような疑問をクレム先生に言う。

「大丈夫だ。エグラベルは昔の意味合いでっていうし、それにアーサーという名前も王様みたいな高貴なものがもつ名前だからね」

 その言葉にアーサーはゾッとした。

 まるで自分の全てを見透かされているような感覚に、冷や汗をかいた。

 だが、クレム先生は何事もなかったかのようにアーサーとエノの肩を押した。

「さぁ、行ってらっしゃい! 良い報告を待っているよ! 僕はいつまでもこの村にいるからね!」

 だが、今の場面は考え事をしている時ではない。

 アーサー達はしっかりと気持ちを切り替え、今までの感謝を伝える。

「今までお世話になりました。立派な騎士になって戻ってきます!」

「クレム先生! 今までありがとうございました!」

 そういうと、ジーク達が進んだ道のりをやっと歩みだした。

 クレム先生は二人が村を出て、その姿が消えるまで歩みを見届けた。

「偉大なる騎士、か。なってくれよアーサー・エグラベル。伝説の〝英雄王〟に」

 そんな声も聴こえたような気がした。


 その頃、アーサー達の歩みの目的地であるレトアニアの首都では奇怪な噂が広がっていた。

 街の人々はその名前を口々に出し、都市全体を覆い尽くすほどの恐怖がそこに集約している。

 勿論、この噂は王の耳まで届き王宮では急ぎ神官や貴族たちが会議を開いていた。

 一筋の火が宿ると、正装神官や貴族が姿を現す。

 会議室の黄金の修飾が、辺りを満遍なく照らし続け、集まった者たちの集中を途切れ途切れにしていた。

「南の大帝国か。何故二年もの間にあそこまで成長したのだ」

 南の大帝国。

 周辺諸国とは一切変わらなかった小国であったが、昔の王が即位して以来二年。

 つまり、アーサーがクレム先生を師とし騎士の鍛錬を始めたばかりの頃だ。

 帝国は急激な成長を見せ、今やこの世界全体を見回しても一つや二つしかない大帝国まで成長を遂げた。

 そのことの対策について、王宮では激しい議論が飛び交っていた。

「やはり放っておくことはできまい。いずれ、戦うことになる相手だ。一度ザムンクレムと手を組み共同戦線を張るのも良かろう」

「ふざけるな! 宗教を屈辱し! 今や四天王などというものを、神聖な神と同じ扱いをする異端者共と手を組むなど、それこそレトアニアの恥だ!」

「だが、今の我らレトアニアの後ろ盾である東の王国や帝国達もそろそろ痺れを切らしているだろう。現状での資源不足では太刀打ちはできまい」

 暴論が暴論を呼び、まるで本格的とは言えない。

 ある者は席を立ち、ある者は帰ってゆく。

 しっかりと纏めることもできず、ただ淡々と立つ時間に、神官たちも焦燥を隠しきれていなかった。

 ただ侵略の剣を振りかざされ、何もなく朽ちてゆくのがこの王国の運命なのか。

 唯一の神に縋るしかないこの状況。

 しかし、その殺伐とした空気の中に、それを一転させるかの様な凛々しい声が響いた。

「静粛に、ご静粛にしていただけますか」

 そこには、不気味な微笑を浮かべ鮮やかなピンク色をしたドレスを着飾る女性が、凛乎として立っていた。

 垂れ目であり口調は実に優雅である。

 そこからは大人しく、おっとりとした印象を与えられる。

「南の帝国は動くことはありません。安心してください」

「アルワール卿! し、しかし攻められないという根拠が」

 そう一人の貴族が口走る。

 するとニヤリとまた紅の唇を歪曲させ、微笑する。

「あのお方達は、まだ南の西北の地方を征服し完全に統一したばかりです。まだ民や内政などを完全に統括してきってはいないでしょう。それに、あちらも侵略したのは山々な筈ですよ。今はまだ、その甘い夢に浸らせてあげましょう」

「ですが! 万が一いち早く攻めてきたら!」

「ふふふ。まずあの王国が狙うのはザムンクレム王国からの筈です。あの方たちはザムンクレム王国にふか〜い因縁があるのですよ。とても深い因縁が」

 アルノワール、と呼ばれた女性は艶の差した赤い唇が妖しく、そして美しく歪んだのであった。




 村を出て、首都へと向かう旅の一日目の、心地よい乾いた風が流れる夜。
 アーサーとエノはいつかのビルンデークの都市の宿屋で泊まるということになった。

 ……のだが。

「そこをなんとかできないんですかね。いくら連れとはいえ、一晩女性一人と一室で過ごすのは、ちょっと。ねえ? 分かると思うんですけど」

「んなこと言われたってェ、ウチァもう一室のみだァ。ねェのはねェんだよ。仲良く一つのベッドで一夜を過ごすんだな」

 運が悪いことに、この街唯一の宿屋は既にほぼ満室となっていた。
 残っている一室は一人用なので、野営しない限りアーサーとエノはそんな密室で一緒に一晩過ごすことになるである。

 そんなことできるはずが無かった。エノと二人、一つのベッドの上で寝るなど、想像しただけで耳まで赤くなるのが、現在絶賛思春期のアーサーだった。

 前世では、女とのそんな大胆な経験が無かったアーサーにとっては、かなり高い壁であり、まだ越えてはならない壁だということも自覚していた。

 しかし、アーサーもエノも今夜は疲れている。張り切ってしまってペースを上げ過ぎたのだ。
 お蔭でアーサーのふくらはぎはパンパンである。後ろの腰掛けに座るエノは既に舟を漕いでいる。お疲れ様だ。
 ここはどうしても屋根の下で安心して眠りたい。

 ここはもう、背に腹はかえられない。なに、一年前まではエノが勝手にアーサーの寝床に入って寝ることなどよくあったではないか。
 しょうがないったらしょうがないのだ。止むを得ないのだ。

 アーサーは自分にそう言い聞かせる。
 ふー、と息を吐くことで覚悟を決め、

「ならばしょうがない。一室一晩借りよう」

「へい、毎度。部屋は二階の一番端だ。へへっ、良い夜を過ごせよ小僧」

「……。余計なことを……」

 エノをおぶって、階段に上がる。
 今思えばエノはおぶられてばっかである。
 背中の暖かい感触も慣れたものだ。
 荷物も一緒に部屋へ運ぶ。

 アーサーはエノをベッドで寝かせ、その無防備であどけない寝顔を見て、溜息を吐く。
 この一年半で彼女も女らしくなったものだ。

 青い前髪を手ですくう。彼女は髪も腰に届く程伸ばした。
 腕も脚も伸び、出るところも出ており、非常に魅力的だ。
 そんな女が自分に無防備を晒しているのだ。何故か誇らしく、そして恥ずかしくなるのが男の性というものである。

「さて、」

 アーサーはベッドから離れ、部屋の奥にあるテーブルにつき、荷物から一つのノートと、羽ペンを取り出す。
 テーブルの上にノートを置き、開く。
 内容はアーサーの日記だ。

 一年前から書くようになった。
 日記を書くことにより、物書きに慣れるようにする、というのが建前だ。が、実のところは、時々思い出す前世の記憶と共に日々の出来事や情報を書き残すことにより、忘れた時に読み直すためのものだ。

 特別、アーサーが物忘れが多いというわけではなく、単に生前の日課であった故の行動である。

 もしかしたら、ザムンクレムの王宮——残っていたらだが——にその日記が残っているかもしれない。
 見つけたら何が何でも手に入れなければならないだろう。

「……ふぁ」

 書き終わったと同時に口から出るあくびを噛み締め、野営用の寝袋を荷物より取り出し、床に横になる。

 次の街までは二日から三日くらいの距離があるため明日は準備、明後日に出発するのがいいだろう。

 アーサーは視界が暗くなるのを感じつつ、朧げに予定を考えながら眠った。


 目的地、首都セントヴィールまでの旅は始まったばかりであった。


■◾︎■◾︎

 影さんパート少なすぎィ!

『零影小説合作』第十話〝険悪と成長の日々〟

 どうやら私はフラグや伏線を描写に入れるというのが苦手なようです。
 これから鍛えていかなければ。

□◽︎□◽︎



 あれから三週間という日が流れた。

 合宿は終わり、それからも厳しい鍛錬の日々。

 それを見事に耐え抜いたジーク達の顔は、しっかりと引き締まり、一流の騎士と言っても過言ではないほどたくましくなっていた。

 太陽がギラギラと日光を照らし続ける昼間。

 クレム先生の家に一回立ち寄り、村の門の近くで送ることに決めた。

 見送り際、少年兵団にゆく三人と、アーサー、エノ、クレムの三人が向かい合う形で別れを告げる。

「クレム先生。アーサー、エノ。今までお世話になりました」

 ジークがそう発して頭を下げると、バルハとアークも同時に頭を下げた。

「ちゃんと、親御さんにも最後の挨拶はしていってよ?」

「あぁ、勿論!!」

 そう、バルハが和かな笑顔を浮かべアーサー達を見る。

「お前ら、本当にその笑顔だけは魅力的だな」

 そんなことをアーサーは冗談混じりにいう。

「私はまだ緩慢だが、お前らはもう騎士だ。私の分まで頑張ってくれよ」 

「あぁ! 当たり前だ! お前の分まで立派な騎士になって! アーサーの歯茎をガタガタ言わせてやる!」

 アーサーは微笑を浮かべる。

 今まで見てきた中で一番に清々しく、威厳あった顔が一変し、いかにも少年らしい顔だった。

「どういう表現だよ」

 そう言っているうちに、この尊い時間も遂に終わりを告げた。 

 時とは早く、残酷なものだとアーサーは悟った。

「さぁ、時間だよ。少年兵団の募集場所は分かるね?」

「はい! じゃ! 行ってくる!!」

 そう、元気よくジーク達は返事をし、背中に振り返り村の門を出て行こうとした時であった。

「ま! 待ってくれ!!!」

 アーサーの足は自然と前に出て、気づけば三人を追いかけていた。

「アーサー! どうしたんだよ!?」

「これ、これを持って行ってくれないか?」

 それは小さな小さな木刀の破片だった。

 これは、クレム先生から木刀の作り方を学び、作製したものであった。

 まだ初歩中の初歩をクリアしたばかりのものでもあり、少し剣の先端歪んでいる。

 それを折って、友情の証、というのは言い過ぎかもしれないがその様な感じのものであった。

「お前に、受け取ってほしい。辛くてもこれを見てクレム先生や私、そしてエノを思い出してほしい。バルハやアールも」

 そういうと三人に手渡しで渡した。

「ありがとうな!!」

「すまないな、アーサー」

 二人はそう言って貰った。

 だが、ジークは無言だった。

 悲しみを堪えているのか、はたまたお礼はいいたくないのか、複雑だが問い詰めるのはやめる。

「さぁ! 三人共! 行ってこい!」

『おう!!』

 猛々しい声を三人同時に上げると、また道を歩き出した。

 その歩みは別れの悲しみではなく、次に向けて前へ突き進もうという勇猛な心が直感的に伝わる。

 ーーお前は、外の世界を知りたくないのか?
 村を出て行く三人の背中を見ているとジークの言った言葉が淡々と脳裏に蘇った。

「外の世界、か」

 アーサーは、何故か今までシャンとしていたのに、意気消沈してしまう。

 ーーあいつは、なにを思って私にそう語りかけたのだろう。

 普通に考えれば、そんなこと直ぐに分かるはずだ。

 だが、今回だけは虚しいのか悲しいのか思考が安定しない。

 だが、ここでこの悲しみに暮れている時間はない。

 単純に言えば、猶予や余裕がないのだ。

 この後の二年。

 自らは、どのような険しい道を歩むのかは分からない。

 変わったのだ。

 何もかも前世の失敗まで、上手くいっていた王国の時代とは違う。

 アーサーは強い覚悟をした。

 目的を真っ当するならば、どんな蛇の道でも進み悪を正当化しようとも運命づけられた必然をも超越する覚悟を。




 翌日、ジーク達は予定通りビルンデークに着いていた。
 同行者は居ない。ジーク、バルハ、アールの三名だ。

 ジークは三人の先頭に立ってビルンデークの城門を見上げていた。
 友にしてライバルであったアーサーに渡された、『お守り』を片手で握り締めながら。

 ——アーサー。ここから俺の人生は変わる。次会った時にお互いどんな感じで顔を合わせるのか、楽しみだぜ。

 その心の呟きをした後、ジーク達はビルンデークの広場へと足を進めた。

「変わる前から楽しみにしててもしょうがないけどな!」

 そんな言葉を残して。


 時間の針を回してあのジーク達少年が村を去って約一年が経つ。

 あれからアーサーは己を強化するのに幾分か真剣になり、取り組んでいた。
 十四歳になり身体は大人になろうと、日々成長を進めていた。
 身体中の筋肉はバランス良く鍛えられ、ネックとなっていた体力もついていた 。

 アーサーが鍛えている中、エノも成長期から第二次性徴が育ち始め、数段女らしさを増し始めていた。
 クレム先生が連れてきたという馬で乗馬の訓練をしたお蔭か、身体全体は引き締まっていた。

 二人はこの一年、鍛錬と並行して教養も身につけていた。
 読み書き、暗算、基礎知識、作法、儀礼、戦闘知識、周辺国の歴史、世界情勢、レトアニア王国の地理。
 二人はそれらを身につけてきた。

「アーサー〜」

 エノも小屋に来た当初より、円滑に話すようになっていた。
 ハキハキと喋るようになったことにより、声も明確に聴き取ることができるようなった。
 彼女のソプラノの声は美しい。

「ねえー。アーサーってばー」

 エノはアーサーの腕を抱き、しつこく彼の名前を繰り返し口に出す。
 第二次性徴が発達し始めているので、腕には少し柔らかい感触があり、その温もりはアーサーの心を乱す。

 そこでアーサーは閉じていた目を開き、

「ええい、エノ。私は現在瞑想中だ。頼むから静かにしてくれ」

 エノに注意を飛ばす。
 その声も転生した日より低くなっており、男らしさがあった。

 昼下がりの草原の上で、アーサーは日課の瞑想をしていたのだ。
 胡坐をかき、目を閉じ、心を静め、無心になり、想念を集中させていた。
 今回はクレム先生との模擬戦で、どう彼を切り崩すかを考えていた。

 最近になって、クレム先生との模擬戦で彼から白星を取ることができるようになっていた。
 十戦の内一勝程度ではあるが、だが確実に成長していると言えた。

『ジークより数段下回るが、剣の才能が君にはあるようだ。それに敏捷性、危機感知も良くなっている。君は良い弟子だよ』

 とはクレム先生の言である。
 アーサーには生前の記憶が不完全ながらも残っており、その中には戦闘経験で授かった知識もあった。
 身体が着々と大人に近付いているのであれば、その分だけ前世の動きを再現することが可能になって行く。

「私と瞑想。どっちが大事なの?」

 エノは頬を膨らませ不機嫌そうに、しかし可愛らしく睨みながらそう言い放った。
 その言動のアーサーは困ったように眉毛を八の字にし、頬を指先で掻きながらエノの質問に答える。

「いや、それは確かにエノなのだが。逆に聞くが、エノの用は私の瞑想を邪魔するほどの大事なことなのか?」

 アーサーの解答と質問を返されたエノは、彼の物言いが気に入らないのか不機嫌そうに目を逸らした。

「少し遊びたいと思っただけなのにっ」

 エノはそう、小声で呟いた。
 アーサーの聴力は常人より数段優れており、エノの小声をも拾うことができる中々の地獄耳の持ち主であった。
 アーサーはエノのその呟きに苦笑し、

「なら少し、二人で怠惰に耽るとするか」

 アーサーはエノに向け提案し、返答よりも先に青い絨毯の上に金髪の頭を預ける。
 エノはその様子を数秒見つめ、彼の隣で伸びた美しい青髪を草原の大地に投げ出した。

「ジーク達、今頃どうしてるかな」

 エノは脳裏に、アーサーの友であった白髪の少年の顔を朧げに浮かべながら、尋ねる様に口走る。

「あいつらの事だ。上手くやって居るのだろう。音沙汰無いのは元気にやっている印さ」

 アーサーはそう、エノの蒼い瞳を見つめながら言った。
 あれからジーク達に関する噂などは一切聞かない。ここが辺境の村であるから、どこか大きな街にでも行けば或いは彼らに関する情報を聞くことも可能だろうが、アーサーは現時点では街に行くことは許されていない。

 理由としてはクレム先生曰く「君の金髪は目立つ。今だから言うが金髪は貴族に多いんだ」とのことである。
 つまり高貴な存在に見られて拉致される危険性もあるのだ。
 現在のアーサーならば、其処いらの人間程度なら物の数ではないのだが、どちらにせよ街で戦闘行為を行えば目立つのである。
 その様な事態は回避すべきなのだ。

「またいつか、前みたいに笑い合いたいね」

「そうだな……」

 エノの言葉に、今度は肯定を飛ばす。

 やがて、二人は暖かい春の陽気に包まれ微睡み始めるのであった。


 ——アーサーは知らない。これから彼の身に訪れる悲劇の連続を。

 ——エノは知らない。これから彼女の身を迎え入れる絶望の連鎖を。

 彼らは、まだ知らなかった。


■◾︎■◾︎

 一章終了です!
 次章から物語が動きますよぉ⤴︎

 次章も同じくゼロ君と私でお送りしますので、ゼロ君のブログhttp://kuhaku062.hatenablog.com/共々これからも宜しくお願いします!

『零影小説合作』第九話〝発露と合宿〟

 お別れ会の回みたいなもんどす。
 次の更新はもしかしたら時間が経つかもしれません。

 ではどうぞ。

□◽︎□◽︎



「エノ」

「アー、サー?」

 エノは近寄ってきたアーサーの目を、俯いていた顔を上げてつぶらな瞳で返した。

 まだまだ幼さが残っているのだろうか。

 無意識に惹きつけられるこの可憐さは、なんとも心が溢れるような、情味がある。

「残念、だったね」

「…」

 先ほど、少年兵団のビラを見せたが呆気なく自分の期待は裏切られた。

 結局はそんな願望は水面から浮いてきた水の泡のように壊れやすく、割れやすいものだった。

 ジークたちとは別の道を進め、二年のうちに考えろそう言っているのだろうか。

 ならば、自分にあんなにも強い眼差しで見つめることはないし、ここまでしてくれる筈がない。

 無駄な言及や談判は命取りにも等しい。

 アーサーとあの三人組の境目は、どれだけ深淵であり奥深いものだろうか。

 鉛のようなものが一気に、下っ腹に落ちてゆく感覚だ。

 かなり悄然とし、歯をくいしばった。

 何故、割譲されなければならない。

 クレム先生はなんの先端を狙って発言したのだ。

 だが、こんなことでいつまでも欠落していてはキリがないのだ。

「仕方がないことだよ。これがあの人が言っている正しいことなら、それを選択し認めざるをえない」

 そういうと、バッと顔を上げ、空をみた。

 今の心境、青々しいこの空でさえも苛立ちを覚え、自分の血で染め上げてやりたいぐらいだった。

 それぐらいの覚悟がまだあのアスタロトの一件の後も宿っているということだ。
「だけど、ここで、止まっている暇はない、よね」

「その通りだ。エノ。またこれからも世話になるな」

 そんなことを笑顔を見せながら、エノの手を素養で鍛え上げられた猛々しい手で握った。

 余程、純情なのかエノは手を握られただけで、頬を深紅に染め上げかなり動揺している。

 頭から蒸発した煙がでてきそうな勢いに、流石のエノも耐久ができなかったのか。

「う、ううううん!!! い! 一緒に二年! よ! よよよろひくお願いしますっ!!」

 興奮しすぎたせいか、声が裏返り、今よりもっと高い声を目を回しながら言った。

 その大きさはこの世の万物を全て貫いてしまうな勢いだ。

「あ、あぁ」

 さすがにこれも唐突だったので、それ相応の驚愕した様子で返事をした。

 堆積していた荷が全て吹っ飛ぶような、そんな感覚を、アーサーは覚えた。

 そして、その後の鍛錬。

 予想通りジーク達の鍛錬の過激さは、容赦なく増していった。

 三人は今にも倒れるのではないかという勢いで、どんな過酷な訓練もやり抜いた。

 苦しい、辛いということは一切と吐露はできない。

 ハァハァ…と荒い息がその場を支配する。

 体全体が悲鳴を上げ、汗が塗るようにして首筋や、顔のあらゆる場所から滲み出ている。

 正直言ってまだ子供標準ではクリアが到底できないものまであった。

 騎士になるとは言え、どれだけこの訓練を受けると飛躍的になるであろうか。

 体力的にも限界があるというのに、クレム先生は一切の猶予は見せない。

 自分と比況しているわけではないが、妙に瀰漫な雰囲気が漂っていた。

 表情を見るとあまりにも悲喜こもごもしている為に少々心配になってきてしまうことが多かった。

 ーー二日も立てば、こんな空気は消え去るだろう。

 そんなことを思いながら、広大な草原で鍛錬を懸命に続ける三人を凝視していた。

 そして夕刻。

 無駄に視力もいいのか、分かりやすいのか。

 剣の持ちすぎ振りすぎで、手に豆ができている。

 かなりの激痛であり声を抑えているのだろう。

「ハァハァ、ぐっ、ハァハァ」

 自然とでる、三人の荒い息切れと平原を包む春が残した、心地よい風が不協和音を見事に奏でる。

 三人は弱音を一切とはかず、まるで植物のように、ただただ葉を揺らしているかのように剣を振っていた。

 しかし、彼らにはもう剣を操る気力はなかった。

 酷使していた体は、今にもギシギシと錆びた機械音のようなものがなりそうだ。

 無意識に手の感触は消え、赤い爪痕のようになっている。

 クレム先生もこれまでだな、と頃合いを見た。

「よし、今日はこれでおしまいだ! よく耐えた! 解散!」

「ハァハァ! あー辛かった!!!」

 苦痛な筈なのに、何故か無駄にポジティブだ。

 草原で一人ジークが座り込んでいると、後ろから汗を拭くための布を肩に放り投げられた。

「お疲れ」

「アーサーじゃねぇか! 今日は稽古休んだんだって? 大丈夫か?」

「私のことより自分のことを心配したらどうだ?」

 そういうと、ジークは咄嗟にボロボロの雑巾のようになった顔をこちらに向け笑顔を見せた。

 まるで、体が弛緩していない。

 これが、本当にクレム先生が取捨選択をした正しい結果なのだろうか。

 じわじわと泥濘が自らの体を埋め尽くす感覚が分かる。

 それは、万感でありとても尊いものでもあった。

「どうした? 変な顔をして」

 どうやら意識してないうちに表情を歪ませていたみたいだ。

 自分の中で、できれば最後の別れまでこんな表情を見せたくないという小さな願望があった。

「あぁ、大丈夫だよ。すまないな」

「なんだよ! ちょっと焦っちまっただろ!」

 そんな冗談を東から昇る月を眺望しながら、交わした。




 それからというもの、アーサー達とジーク達は友好を深めた。

 ジーク達は泊まり込みで鍛錬に励んで居たのだから、自然と彼らと共に居る時間が増すのだ。

 別れが決まってから一週間の時は、アーサーの提案で川にも行った。
 一泊二日のキャンピングだ。

 少年兵団に入るということなら、野宿もするだろう。ならば今の内に体験しておいた方が良いと、クレム先生の言葉で村近辺の川沿いで野宿することになった。

 現在、アーサーとジークは二人で川に、釣糸を垂らしていた。
 バルハとアールはテントの張り方をクレム先生より教わってる最中だ。

 因みにエノは川が珍しいのかはしゃぎ過ぎて、一人着替えてからアーサー達の後ろにある大木の下で寝息をたてている。
 水を蹴って遊ぶエノは、青髪ということもあり、まるで水の妖精——のようにアーサーには見えた。

「なあ、アーサー」

「……ああ」

 先程のエノの様子を思い出していたところを話し掛けられ遅れて反応するアーサー。

 ジークは詰まらなそうな顔をして、片手で釣竿を持っていた。
 ジークという少年はジッとするより、動き回ることが好きなのだ。
 大方、魚くらい銛でぶっ刺して捕らえれば良いのに、とでも考えているのだろう。

 二人の髪を涼しい風が揺らし、アーサーは目を細める。

「お前は、一緒に来なくて良かったのかよ」

 それはここ一週間、一日一回は聞く質問だった。
 アーサーが少年兵団に入らないことに不満があるのだろう。

 アーサーはその度にこう答えるのだ。

「ああ、今の私は未熟だからな」

 と。

 その度にジークは「そっか」と詰まらなそうに返すのだ。
 が、今回はそうはならなかった。

「お前は、外の世界を知りたくないのか?」

 返ってきたのは、そんな質問だった。
 外の世界。村の外、或いはレトアニアの外を指すのだろうか。
 彼らは外の世界を知るために、兵団に名を挙げようとしているのだろうか。

「そういう訳ではない。ただ、今の私が外を知るには、やはり力が足りない」

 と、アーサーはエノの方を見ながら言った。

「お前——いや、それならそれでいいよ。俺としては、お前とは良いライバルになりそうだ、って思ってたんだ」

 アーサーはジークを見る。ジークは相変わらず詰まらなそうな顔で水面を見ていた。
 アーサーには分からなかった。ジークが自分にそのような印象を持っていたことを。

「大丈夫。二年後にはここを出るつもりだ。騎士になるつもりだ。私は」

「……へえ。あの日言ったことは本当だったんだ」

「騎士になったら、お前とも何れまた手合わせできると思う」

 本心だった。自分が満足できるくらいに成長したら、また成長したジークと手合わせしたい。そして二人並んで戦うのだ。

「はは、その頃には俺はレトアニアの英雄になってる頃だ。精々頑張ることだな!」

「ハッ。ならその英雄ジークを倒すのはこのアーサーだ。覚えておけ」

 二人はそうして笑い合う。
 例え離れ離れになろうと、また会えると信じて。
 良き好敵手として笑い合う。

 アーサーが魚を一匹釣る頃には、日は沈み始めていたのだった。


 三人(エノは結局起きなかったので、アーサーがおぶった)がテントに戻る頃には、既に焚火が灯っており、魚を焼いているところだった。

「アーサーとジークか。釣果はどうだった?」

「私が一匹釣った」

 アーサーが片手で持った魚を見せる。12㎝の魚は、口を開閉していた。
 クレム先生はそれ見て笑い、

「ハハ、君達が向かったところは魚が少ないからね。魚を釣るのならここら辺が一番釣れるよ」

『はあ?』

 アーサーとジークは揃えて声を発する。
 それを聞いたバルハはその声を聞いて爆笑だ。

「なんで言わなかったんだよ!」

「だって、呼び止めるよりも先に行っちゃうんだもん。ねえ?」
「ハッハッハッハッハ!!」

「笑うなー!!」

 ジークは顔を赤くしバルハを追い回す。そんな二人を尻目にアーサーは手に持った魚をクレム先生に渡す。

「少し、寂しくなるね」

「そう、だな」

 クレム先生の呟きにアーサーは肯定する。


 その晩は皆で魚を食べ、騒ぎ、遊び、そして眠った。
 アーサーは久しぶりに食べる魚に満足し、ジーク達と共に、友として騒ぐことを楽しんだ。

 ——また会う日の思い出話を作る為に。

■◾︎■◾︎

 次話で多分一章は終わりです!

『零影小説合作』第八話〝助勢と沈黙〟

 今回は今後に大きく影響する回なので、流石にゼロ君と色々話し合いましたね。
 所謂、分岐点というかターニングポイントというか。分岐点を選ぶのは、アーサー君本人では無いんですがね。

 そういえば、PVが100を越えました。有難う御座います。


□◽︎□◽︎



アスタロト、貴様どうしてここに!」

 唐突に現れたのは、ザムンクレムを裏で操っていると思われる黒幕だった。

「ふふ〜ん、今日こそ思い出したんじゃな〜い? 私のこと」

 血に染まったような赤髪を優雅に揺らし、いかにも何かを企んでいるかのような双眸。

 深紅な舌を出し、こちらを奇怪な微笑みで誘惑してくる。

 実に気分が悪く不快だが、体全体が拘束されている以上、手荒な真似はできない。

 第一、この悪魔の恐ろしさは自らが誰よりも一番知っている筈だ、挑んでも勝利はない、と。

 確信しているのは自分、それを肝に銘じできるだけ大人しくした。

「あら? 意外と素直なのねぇ」

「無駄な体力はもう使いたくはない。それに鍛錬で疲れている。いい加減解放しろ」

「やーだ、今日は一杯話したいから、離せばあなたどこかにいっちゃうでしょ〜?」

 皮肉染みたことを淡々と言うと、小屋の壁に背中から叩きつけられ、何処からか現れた棘に手と足を縛り付けられる。

 人間ではない、明確だ。

 するとアーサーの顔面にアスタロトは顔を近づけた。
 まるでさっきの余裕な表情は何処へ行ったのやら、真率そうな表情をアスタロトはとる。
 それに何故か、反射的に自分もそのような態度をとってしまう。

「貴方たちは知らないだろうけど、ザムンクレム王国は、レトアニアが勢力圏を置いていた元アルカニスの土地を攻め落としたわ」

 いきなり何を言い出すのかと思えば、今や世界を滅ぼしかねない二カ国の戦況を語りだした。

 だが、かなりの衝撃的な情報に視界を歪め、食いついてしまった。

「なんだと!? 兵の数を漸増でもさせたのか!? 対比的にレトアニアが有利な筈なのに……」

 だが、この悪魔は一切にアーサーへの返答は応じず、話しを進めて行く。

「奴らは、まるで敵国の人間をゴミのように扱ってるわ。僅差すらも関係なく、己が欲望がままに略奪や殺しを繰り返す。人間臭さが漂りすぎてて苦笑しちゃったわ〜ぁ」

 動きや情報があまりにも極端すぎる。

 アスタロトが現れたのは充分な奇禍だが、これは誠に禍々しく感じた。
 自らの考えていた情勢の懐紙が、見事に中で漆黒に塗りたくられた。

 有り得ない。

 もう、ザムンクレムの人間たちが悪魔と契約を交わしているという噂は今ここで事実になろうとしている。
 禁忌の力に何故手を伸ばしたか、だが一番聞きたいが今はそれどころではない。

「と、いうことは。様々な都市でも感染病や人々が飢えて死んでいるということか!?」

「そうよ、結局は王国はやってることが剪定と一緒。新たな新地を作り上げる為に、古いもの、つまり先住民のような邪魔者は排除される。渋茶でも飲むような感覚だわ〜ぁ」

 チェスでもやっているような感覚だ。

 倒した者は一切と駒にせず、撃ち捨てる。

 歯を食いしばり、ただただアスタロトを睨みつけることしかできない今の自分は、なんとも情けなく無様なんだと後悔した。
 いや、後悔が足りなすぎる。

 体の全身がピクピクと動きだす、手はその衝動を抑えつけようと拳を流血するのではないかというはど強く握り締め、唇は震えた。

「悔しいのぉ〜? でも残念無念。今の貴方じゃ、何もできないの。何もね」

 そう言われてみればそうだ。

 だが、弱音は吐かなかった。

 自分が治めていた国は必ず、何を利用し、酷使したとしても、叶わぬ願いだと知っていても、今の全てを失ったとしてもやり遂げなければならない。

 そんな心の中で疼く使命感が、アーサーを抱くようにして、突き動かす動力になっているのかもしれない。

 自分でそんなことを考えるのは愚考かもしれないが、諦めないため、奮い立たせる為には充分すぎるものであった。

「残念、無念なのはそっちさ。私は絶対に諦めないのだからな。私を諦めさせようと思ったのなら、まだまだ考えが甘いということだ。地獄に帰って出直してこい、クソ悪魔」

 そんなことを、苦し紛れの表情に微笑を浮かばせて言うと、アスタロトは笑い出した。

「はっははははは!! 面白い! 面白いわぁ! 貴方! この状況で! 劣勢すぎる状況で! クソ悪魔だなんて! 言ってくれるわ!」

 そんなことを魔女のように不気味に猛々しく笑うと、ふぅ……と溜息をつくように自らを落ち着かせた。

 すると何を思ったか、アスタロトはアーサーに掛かっている棘の拘束を解放した。

「ゲホッ! ゲホッ!」

 若干、首を絞められていたので咳をこむ。

 だが気分は爽快であり清々しい。

 アーサーは自らの勇気に自負ではなく感謝をした。

「貴方、そんなことを言って私を怒らせるとか考えなかったのぉ〜?」

「さぁ? だが、私を左右したのは傲慢という名の神様だよ」

 そんな通じるはずもない屁理屈を抜かす。

「つまらない芝居は閉幕だ。さっさと出て行ってもらおうか」

 すると、近くにあった剣を咄嗟に持ち出し構える。

 自分が死んでこの体になるまで、どれだけの間剣を握ったことがないか。

 感覚が未だ曖昧だが、容赦なく斬れることは間違いないだろう。

 前の覚悟より、もっと鋭い覚悟をかもちだした。

 それを見ると、アスタロトはつまらなそうに手をヒラヒラと小鳥が懸命に羽を動かしているように揺らす。

「私、今日は戦いに来たんじゃないし、まあ精々普通の騎士一人を持ち上げるぐらいには成長しなさい」

 呆れたような声を出して、出て行こうとするが何かに気付いたかのようにまたこちらを振り返る。

「そういえば、王国がこんなビラを町中にバラ撒いてるわよ」
「ビラ?」

 天を衝くような早さで一枚の紙が投擲された。

 それを見事にキャッチするとビラに書かれた言葉を不自由そうでおぼつかない喋り方で音読した。

「少年兵団を募集す、場所はレトアニアの都市、ビルンデーク広場…おい、これは一体」

 そう聞こうとするが、アスタロトはその場をもう既に消えていた。
 前に思い出せとかうるさく言っておいてなんなんだと思っていたが、やはりこの渡されたビラが気になった。

「クレム先生に相談してみるか……」




 アーサー、ジーク、バルハ、アールの四名は彼らの鍛錬の時に使われている、村近辺の平原にある大きな木の下で座らされていた。

 アーサーが『元王』からこの『身体』になって、一番最初に居た場所である。

 風が木の葉を揺らしサワサワと音を立て、青い葉を落とす。
 アーサー達は皆一点に目線を送っていた。

 件の少年兵団募集のビラを、クレム先生が見せ付ける様に、持っていた。

 彼らの様子を見守るのは高い位置にまで登った白い太陽と、木に寄りかかる青髪の少女、エノだ。
 新しい服が気に入ったのか、早速落ち着いた色の簡素な服を着ている。

「君達。これが何か、分かるかね」

 沈黙を破ったのは、クレム先生だ。
 彼の声はいつもより数段硬く、彼の真剣な様子が窺える。

 ゴクリ、と喉を鳴らすのはアーサーの右隣に居る白髪の少年、ジークだ。
 アーサーは無表情で数秒目線を送るが、すぐにクレム先生へと戻す。

「『ビルンデークにて少年兵を募集』と、書かれている」

「はい」

 相槌を打ったのはアーサーだ。

 彼はあの後、どうクレム先生に切り出すかを考えながら静かに多めの朝食を食していた。

 食べ終わった頃に、鍛錬に来たジーク達が訪れ、『少年兵募集』のビラを見て目を輝かせた。
 そうして騒いでる間にクレム先生が戻り、ビラを見つけアーサー達から取り上げ、この広場に呼び出された。

 そうして今に至る。

 正直、アーサーの心境は微妙であった。
 ビラを貰った時こそ、名乗り出て堕ちた直接この目で今のザムンクレムの民達を確かめよう、と思った。

 だが、今落ち着いて考えれば、自殺行為の様なものである。
 もうあと半年ほど鍛え、体力を付けた後なら兎も角、現在の自分では敵襲を大声で報せる見張り役しか出来ないだろう。

 そうやってイタズラに危険な場所へ行くなら、騎士を目指しクレム先生の元で己を鍛えた方がマシである。
 臆病でもなんでもない。ただアーサーは騒ぐジーク達を見て、何故か冷めたのである。

「単刀直入に言うと、僕は君達が行くのは大反対だ」

 クレム先生は真剣味のある声で、ジーク達の期待の目差しをザッパリと斬った。

「なんでだ! 今の俺なら充分強い! 少年兵とか余裕だ!」

 そう、怒気というには数分違う怒鳴り声で反論したのは、案の定かジークだった。

「確かに、ジークなら民兵より役立つだろう」
「だったらなんで!」

「だが、君の精神はまだまだ子どもであり、君の剣には自酔が乗っている」

 クレム先生はキッパリとジークに対しての評価を述べた。
 これに関してはアーサーも知っていた。
 増長すれば必ず痛い目を見る日が来る。出っ張った杭は打たれやすいのだ。

「でも、そういう意味でも。現実を知るという意味でも、ジークは兵団に入団してもいいだろう」

「……」

 ジークは喋らない。
 流石の彼でも、ここで調子に乗るのは良くないと分かっているのだ。

 アーサーはクレム先生の目を向けながら、密かに感心した。
 良く出来た子どもだ、と。

「バルハもアールも、ジークに着いて行くのなら、それも良いだろう。バルハはジークを動き易くサポートし、アールはジークの届かないところをサポートすればいい」

「————」

 なんだかんだ言って、バルハとアールもそこそこ身のこなしがなっている。
 バルハはこの四人の中で一番頭が切れ、大抵のことは平均以上の結果を出せる天才肌だ。
 アールはアールで四人の中で一番背が高く、力持ちだ。いざという時、皆を庇いながら帰路へと導いてくれるような、そんな逞しさを感じさせる。

 だが、クレム先生の喋り方からすると、アーサーは——

「だがアーサー。君は駄目だ」

「なんで……!?」

 クレム先生による反対意見に、真っ先に疑問を抱いたのはアーサー本人ではなく、またしてもジークだ。

「アーサーは! 最近になって力を付けてる! 俺より走るの早いし!」

 子どもっぽいともとれるジークの意見は、アーサーを仲間として認めてるが故のものだろう。

 ——紛い物の偽物である私を、仲間として見てくれるお前に、感謝を。

 アーサーは心の中でそう、静かに謝礼を贈る。

「確かに、最近のアーサーは力が付いてきている。始めの時よりは体力が付いてきているし、君の言う通り敏捷だ。気配感知の才能もある。増長もしないしね」

「……」

 そんな評価をされていることが、アーサーには嬉しかった。
 ここ最近、頑張ってきたのだ。その結果が高く評価されて、誰が喜ばないのだろう。

 だが、ならば何故アーサーのみ、少年兵団の入団を反対するのか。

 その理由はすぐにクレム先生の言葉によって明かされる。

「だが、アーサー。君は当分ここを離れてはならない。理由は——」

 クレム先生は一瞬だけ、エノに目線を送り、続ける。

「——まだまだ未熟だからだ。そしてその金髪は目立つ。レトアニア側にそれを利用されることも考えられるんだ。僕は、そんなところに君を送りたくない。せめて二年は鍛えてもらわないと、僕は納得しない」

『————』

 クレム先生の静かな説明を聞き、その場は何度目か分からない沈黙が支配する。

 この平原には六人しか居ない。故にこの沈黙は、この世界には彼らしか存在しないという錯覚さえしてしまう。

 この時アーサーが思ったのは——。

「ジーク、バルハ、アール。この少年兵募集の期限は一ヶ月後。ここからビルンデークは丁度一日で着く場所にある。
 なので、君達の出発は三週間後とする。良いね」

『はい』

 三人の少年は落ち着いた声を揃えて、返事をする。

「では解散」

 そうして、四人の少年達は静かに去って行った。

 アーサーは微睡み始めたエノの元へと向かって行ったのだった。

 ——或いは、エノと触れ合うことで、この何ともいえない感情を洗い落としてもらいたかったのかもしれない。


■◾︎■◾︎

 一章も後少し!
 気になる続きはhttp://kuhaku062.hatenablog.com/にて!

『零影小説合作』第七話〝真否と危険〟

 油断した時が危ない的な台詞って、大体強キャラが発しますよね。

 今回は言われる前に危険が彷徨って来たようです。


□◽︎□◽︎




 エノ、不思議な少女だ。


 見ているだけで落ち着くし、何故か自然と見惚れてしまう。


 声もまるで、小鳥の囀りか白色透明のように透き通っている。


 そこそこ、美少女と言っても過言ではないであろう。


 高貴な姿やオーラを出しながらも、貴族や王族特有の自尊心というものが一切と見受けられない。


 前世では自らの行う政治などに、不満や文句などなど口々に言い張る貴族ばかりであったが、このエノという少女となら良い政治ができそうだ、と何故か王様時代の気持ちに戻ってしまった。


 そんなことを小さな岩に座りながら考えていると、後ろから頭に向かって小さな木刀が振り下ろされ、コツンと良い音がなる。


「いった……」


 後ろを振り返ると、異常に眩しい太陽の光が襲い、思わず手を翳してしまう。


「今日は妙に日差しが強い日だね。そこで、それを直感的に見れているかどうか、ちゃんと周りを見ているかということを知りたくてね。どう? ちょっと賢いこと言ったでしょ?」


 そんな軽やかな口調で、光を背に言うのはクレム先生だ。


「分かってますよ、今行きます」


 小さな笑顔を掲げ、また鍛錬を行う原っぱへと戻って行く。


「今日は、エノの衣服やらを買わないとな。あのままじゃ可哀想だし」


「そうですね。でも、女の子だからって先生また変なもの選んじゃダメですよ?」


 アーサーは睨むようにして、クレムを要注意した。


 アーサーにはとある私憤があった。


 クレム先生と小屋で住むようになってから約一日目、衣服が無い為、おおきな街に繰り出し購入した。


 ここまではいいのだが、この人はドレスをなんの躊躇いなく購入してきた。


 理由は、金髪が珍しいから、だそうだ。


 金髪はこの時代、女の方が割合が高く男は少なかった。


 若い男などは昔から戦場に駆り出され、その遺伝子を残すことなく散っていった。


 そして、やはりそのような壮麗な髪は貴族などの裕福な家庭などが多い。


 なんとなく分かる事由だが、男の本能的に女物を着るなど、到底拒絶する。


 それを断ると、なんと急に肩を落とし足を正座のように曲げると、クレム先生は目を覆うようにして泣き出したのだ。


 そのようなお洒落、というより着物の類についてはかなりの自負心があったらしく、騎士道をもとることより辛いことであった。


 結局その服は着ることなく、小屋の主軸となる大黒柱に貼り付けのように飾られた。


「分かってる! 分かってるってば!」


 そんな焦燥をしながら、三人が鍛錬する場所に戻り再開した。


 夕刻、鍛錬も終了しいつも通り小屋に戻った。


 汗で塗られたぐっしょりなシャツで、小屋の外に流れる川の水で顔を洗っていると声を掛けられた。


「アー、サー…」


  それは、綺麗な街娘が着るような服を着たエノの姿だった。


「エノか。中々似合っているぞ、その服」


「そ! そう、かな。えへへ……なんか嬉しい」


 頬を赤くに染め上げるアーサーは、可愛いと感じるより何故か愛らしいと感じた。


「まるで、レテナのようだ」


 そう言うと、また頭の奥で閃光が迸った。


 このようなことは短時間に偶にあるので、完全に馴致したのかと思っていた。


 だが、今回のは純度、というより脳に掛かる衝撃が違う。


 踏襲ができない。


 ーーレ、テナ? 誰だそれは、一体何故言った。


「あっ、ぐっ、あああっ!」


 頭を上下に振り、狂乱したかのように叫び声に近い声を荒げる。


 無意識に不意と起こったことなので、衝撃の後の深淵があまりにも深く余震のようなものが襲う。


「ぐっ、あ!」


 その途端、目から潤みが消え去り全身の力が消失してその場にバタンと倒れこんだ。


「アーサー!? アーサー!!」


 身の危険を感じたのか、木の裏に隠れていたエノが駆け寄った。





 目が覚めると最近見慣れつつある天井が視界に入る。

 身体を起こすと、頭の中身をグチャグチャと掻き回すような不快感がアーサーを襲う。


「アーサー、大丈夫?」


「……エノ」


 声を掛けられた方へ顔を向けると、そこにはエノが寄せてきたと思われる椅子に座っており、その整った顔を傾けていた。


「ああ……大丈夫だ」


 この身体になってから頭痛と失神と妙に縁があるようだ。

 体質なのだろうか。


 そこでふと、疑問が浮かんだ。


「エノ。私をどうやってこの小屋まで運んだ?」


「僕をお忘れかな? アーサー」


 そう言って視界に捻じり入ってきたのはクレム先生であった。


 ——しまった。エノに意識が行ってしまい、完全に忘れていた!


「やれやれ。先ほどもそうだが、余り視線を送り過ぎても怯えられるだけだぞ? ア・あ・サ・あ・君」


「……?」

「五月蠅い!」


 皮肉げに言うクレム先生に、エノは首を傾げ、アーサーは怒鳴り散らすというそれぞれがそれぞれな反応を見せる。


 しょうがないのだ。年頃(ジーク曰く十歳らしいが)の少年に、あんな美少女を置くと、それそれは目線も意識も行ってしまうものなのだ。

 しょうがない。これは自然の理、世界法則なのだ。仕方が無いったら仕方が無いのである。


「にしても君はよく倒れるな、アーサー君。体質なのかい?」


 クレム先生が口にした質問は、アーサーが数分前に浮かべた疑問のそれとほとんど同じ内容であった。


 過去の記憶を思い出そうとすると、出てくるのは記憶では無く頭が引き裂かれるような激しい頭痛だ。

 ——それはまるで、不審な人物が都に入ろうとして、門番に摘み出されるような、そんな印象を受けるものだった。


「はい……まあ、そんな感じです」


 アーサー自身ハッキリしていないので、取り敢えず適当に返事することにした。


 アーサーはそういえばと別のところへ意識を移す。


 ——それはこれ以上、『記憶』のことについて考えたくなかったからかもしれない。


「そういえばクレム先生。私はどれくらい眠っていたのですか?」


「ああ、約八時間くらい、かな。もう朝だ。君用に朝食を作っておいた。夕飯も食べていなかったからよく食べるように」


 クレム先生はそう言ってテーブルの上に置かれた皿を、顎で示す。

 だがその口調はまるで、


「どこかへ行くのですか?」


「ああ。僕とエノは先に食べたからな。エノの服をこの村の雑貨屋で買おうと思って。服は未だしも、女用の下着を騎士様が買っていると思われると、アレでだな……」


「ああ、なるほど。分かりました」


 エノの顔ばかりに目線を送っていて、そこまで考えてなかったアーサー。

 だが確かに、クレム先生一人が行くとアレだし、かと言ってエノ一人だけに行かせるのも心配だ。


 アーサーも行きたかったと思ったが、タイミングが悪かった。

 止むを得ないという考えと少し刺激が強過ぎるなという考えで、自分を無理矢理納得させる。


「クレム先生。決してエノに危険が無いようにお願いしますね」


「肝に銘じておくよ」


 暗に「血迷ってエノを襲うことが無いように」と皮肉るアーサーに対して、またもや不細工なウインクを送るクレム先生。

 正直不快である。


「では、行ってくるよ」

「大人しく、しててね。アー、サー」


「気をつけてな。エノ」


 出発を告げる二人とエノにのみ挨拶をするアーサー。


 早足で出て行く二人を見送ってから、アーサーは小屋のドアを閉める。


 さて、朝食を食べようと椅子に座ったところで、ドアがノックされる。


 ——トン、トントントン。


 アーサーは二人が何か忘れ物をしたのだろうと思い、ドアノブに手を掛ける。

 なんだかんだでうっかり屋の二人だ。よくあることだろうと、そんな平和なことを考えながら。


 ——それはエノという大きな存在に浮かれ、気が抜けていたからかもしれない。


 はっきり言って、アーサーは油断をしていた。


「なにを忘れたんだ、クレムせんせ——」


「は〜あぁ〜い」


 扉を開いて現れたのは、安心感を与える落ち着いた青髪では、なかった。

 そこに現れたのは危険色の赤色だった。


「なッ……むぐっ!」


「はーいはーい。静かにね〜ぇ」


 口を手で塞がれて小屋の中に押し込まれる。

 その勢いのままに、アーサーは赤色に寝床まで押し込まれ、やがて押し倒される。


「また、二人でお話、しよっか?」


 アーサーの紅い瞳に映るは赤髪の少女——のような悪魔。


アスタロト、だよ?」



■◾︎■◾︎


 ドキドキ! 赤髪美少女と二人っきりのお留守番!

 気になる続きはhttp://kuhaku062.hatenablog.com/にて!

『零影小説合作』第六話〝未開と決定〟

 いよいよヒロイン登場ですね。
 これからどのように物語に絡むか気になります。



 クレム先生が道端で倒れていたという一人の女の子を拾ってきた。

 夜空を思わせるかのような暗く青い髪をした不思議な少女。

 一見、大人しそうにも見えるが、なにか曖昧な力というより、複雑化した何かが縫うようにして彼女を襲う様な感覚。

 この力をどうやって表現するかは、自分には不明瞭すぎた。

 しかも、服がこの辺りに住むリトアニアの民たちのものではない。
 特別というより、別格な高貴な服を着ている。

 余程の高貴族か、ましてや王族か。

 何かの騒動の火付け役として駆り立てられ、逃げてきたのか。

 そんな、素人染みた予測を自分の中で立てていた。

 繊細なその体つき、そして手の柔らかい感触。

 何故か、それは自らを高揚させ、冷静さを失いそうだ。

 漸次、時間が経つにつれ烈火の如く暑かった首筋の熱はだんだんと落ち着いた。

 どうやら先程よりかは鎮静されたのだろう。

 病気、という定義や必定にすることなど詳しいことは一切しらないが、兎に角今は治ることを祈るばかりだ。

「それにしては暇だ……」

 看病をして見守るのはいいが、やることが何もない。

 第一腹の虫がグルグルと、叫び声にも匹敵するほどの荒々しい音をだし、食欲を誘惑する。

 そのうるさい腹声が少女を刺激したのか、小さな可愛いらしい唸り声のようなものを開け、目をさます。

「んん……うぅ」

「起きたか、娘よ」

 美しい蒼髪をした少女はまだ目を完全には開けられず、薄い視界を彷徨っているようである。

「あな……たは……」

「私はアーサー。私の師が君が倒れている所を見つけ、ここに運んだのだ」

「アー、サー」

 すると少女は、まだ眠そうな顔で無理矢理笑顔を作って名乗るかのように思えた。

「私は、誰?」

「!!」

 唐突のとんでもない発問に、目を皿のようにして動揺した。

 高熱の衝動で記憶が吹き飛んだか、はたまた消されたのか。

 物情騒然のこの世でそんなことは不条理にも有り得ることだ。

 今、聞きたいことは山々だ。

 だが、弊害がこの女の子の脳を蝕んでいるのか、ならば余計な穿鑿をすればまた彼女を刺激して悪化させるのかもしれない。

 そう察したアーサーは、できるだけ考えついた別の方法でなるべく、便宜的なことは避けるようにした。

 ——中途半端な発想で思いついた質問はまた悪影響を与える可能性が高い

「君……」

 と、いい掛けた瞬間であった。

「お! 起きたんだ! その子! 何処からきたのか分かった?」

 クレムが狙ったかのようなタイミングで帰還した。

 バカ野郎! とアーサーは心の中で叫ぶ。

「何処から、私は……」

 ——逃げろ!  お前まで殺されるぞ!

 ——儚きものよなあ!!

 ——ぐああああ!!!

 ——逃げて! 貴方がいなければこの国の崩壊は免れないわ!

 ——お前は生まれてくるべきではなかった

 全てを思い出したかのように、不用心にこちらをみると、碧玉のような目がまた瞼に閉ざされゆく。

 だが、小声のように彼女は最後に呟いた。

「やっと、会えたね……」

 その言葉に思考が止まった。

 いや、その場の空間の時間が停止した。

 白い槍のような何かが、自らを貫くような感覚が襲う。

 ——何か、何かを思い出さなければならない気が

 有象無象な考えの放列は、一つの言葉の砲弾によって、壊滅した。

「あれ? また寝ちゃったのか。まあ、病気が併発しないようにまだ寝かせておこう」

 アーサーは、まるで全世界の苦悩を一人背負っているかのような表情になる。

 考えすぎか、それとも唐突すぎることについてゆけないだけか。

 完全に思考が飽和しきっている。

 目を細くして考えを一度見限ると、なんとか落ち着かせることはできた。

 だが、謎は深まるばかりであり突破口を見つけるのはまだまだ難しいようだ。

「この少女は一体、物語のどんな鍵を持っているというのだ……」




 翌日、天気は雨だった。

 雨となると、外で鍛錬はできないので、それぞれ自主的に鍛錬することになっている。とクレム先生は言っていた。

 アーサーも自主的——クレム先生が居るので半ば強制的——に室内で鍛錬していた。
 腕立て伏せに腹筋運動、スクワットなど。
 彼は汗で床を汚しながら徹底的に鍛錬をしていた。

 昨日までのアーサーならここまで真剣にはならなかったのだろう。

 だが状況が違う。
 クレム先生のベッドに一人の少女が眠っていた。

 アーサーは当初、少女にばっかり意識が行っていた。
 だが気にしてもしょうがない。今は休ませなければならないのだ。
 だが、どうしても気になってしまう。意識が吸い込まれるように、少女の方へ行ってしまう。

 気にしてもしょうがない。だが気になってしまう。
 その繰り返しになり、居ても立っても居られなくなったアーサーは、鍛錬に励むことで気を紛らわすことにしたのだ。

 クレム先生はそんなアーサーの様子を見てうんうんと頷きながら、テーブルの上で何かを書き始めた。

 ——憶えていろよ、クレム。いつかその面を一発ぶん殴ってやる。

 アーサーは恨めしやと言わんばかりの表情でクレム先生を睨み、ひたすら腕立て伏せをするのであった。


 少女が目覚めたのは、丁度昼食の時間だった。

「んん……」

 真っ先に気付いたのはやはりアーサーだった。
 なんだかんだで、意識が少女かあ離れなかったのだ。

 少女は右目を擦り、寝ぼけたもう片方の目で周りをぼんやりと確認する。

 やがてアーサーの方で目線が止まり、

「アー、サー」

 金髪の少年の名を呼ぶ。

 その声に気付いたクレム先生は書物をしまい、少女の元へ近付く。
 それに呼ばれたアーサーも続く。

「やあ、気分はどうだい?」

「ん、もう、大丈夫、だよ?」

 途切れ途切れに喋る少女からは覇気を感じられない。
 弱々しい、というよりはなんだか怠そうだ。

 ——静かで落ち着いてそうな少女だ。

 アーサーは一人、勝手にそう考え込む。
 そしてアーサーはその紅い瞳を少女の碧い瞳を見つめ口を開く。

「腹は空いていないか? エノ」

「エノ……?」

 アーサーの言葉の後半を繰り返し発音する少女。
 クレム先生も首を傾げていた。

「ああ、君が昨晩、一度目覚めた時に私に名乗っていたではないか」

「そうなのか? アーサー」

 半分、嘘だ。
 昨晩目覚めた時の彼女の様子……記憶を失っている印象を受けた。
 彼女は言った。私は誰、と。

 なので、取り敢えず、アーサーは彼女に『エノ』という名前を与えることにした。

「エノ……エノ。うん」

 流れる蒼髪の少女も気に入ったのか、口の中で名前を繰り返し口に発している。

「じゃあ、エノ。君には色々聞いておきたいのだが、まずは昼食としよう。丁度三人分作ったからね。立てそうかい?」

「う、ん。立てる、よ」

 少女——エノはゆっくりと立ち上がり、椅子へと向かう。

 どうでもいいが、エノが座ったのはここ二日間アーサー座ってきた椅子だ。
 アーサーは無意識に椅子を見ていた。

「アーサー? 君も座りなさい。座ったら祈りを始めよう」

 今日の献立は鶏肉を焼いたものと黒パンだった。


「それでエノは何処から来たんだい?」

 恒例の食後の祈りを終え、エノに対する質問の時間がやってきた。

「分から、ない……気付けば、倒れちゃってた、の」

 エノは形の整った眉毛を八の字にし、途切れ途切れに言った。
 やはり色々と忘れてしまっている様子だ。

 これまた哀れな者が現れたものだ。

 アーサーは自分がクレム先生にどう思われてるかを棚に上げ、内心でそんな感想が出ていた。

「はあ……」

 クレム先生は重い重い溜め息をつく。
 アーサーはそれを聞き、何かを口走ろうと口を開いたが、結局何も言わずに閉じる。

「取り敢えず。エノ。当分この小屋で住むと良い。ここは小さな村だが……。騎士である僕のところに居た方が一番安全だろう」

 はた、と顔をを上げたのは当人ではなく、アーサーだ。
 クレム先生はそんなアーサーにウインクを送る。開いてる方も半分閉じかけている下手くそなウインクだ。

 ——忌々しい。

 アーサーはその目の端を吊り上げ、クレム先生を睨む。
 一方、クレム先生はどこ吹く風だ。

「えー、と。じゃあ、ここに、居よう、かな」

 エノはそう言ったことで、暫くこの少女がこの小屋に住み着くということが決まったのだった。

 意味の分からない歓喜に踊る心を意識的に無視して、アーサーは頷く。
 そしてアーサーは気付いたようにクレム先生へ言い放つ。

「ならば、エノの衣服などを用意しなければならないんじゃないか?」

 アーサーがそんなことを言い放つ頃には、雨は止んでいたのだった。


■◾︎■◾︎

 余談ですが、エノという名前は私こと影星が勝手に考えた名前です。
 由来は英語で一を表すOne(ワン)を、逆さにしてEno(エノ)としたのをそのまま付けました。
 我ながら単純です。

『零影小説合作』第五話〝真意と少女〟


 熱で寝込む少女っていいですよね。なんかそそるものがあります。

 五回裏です。どうぞ。



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  生前、こんなことを考えていた。


  森とはどんな場所であり、どんな生き物たちが住む楽園なのだろう。


  戦の最中で見るのは、森が焼け野原になり居場所を失い途方にくれる生き物たち。


  悲痛だった、見るに堪えないその光景に幾度となく心を痛め、涙を流した。


  だが、今のこの状況。


  神の天罰か、はたまた何かの縁あってか。

  逆に自分が居場所を失った鳥になってしまった、悲壮感や絶望感はないが、何故か間接的なものがあり新鮮で良かった気もした。


  謎が、謎を呼ぶ国と国との火花の飛ばし合いや黒幕。


 「少し考えすぎだな…森にでも行ってこのモヤモヤをすっきりさせよう」


  しかし、アーサーの前世での記憶はとどまぬことを知らず、徒歩をしている最中にも蘇った。


  暗殺されていなければ、十一年前に戻ることができるのなら、どれだけ素晴らしく僥倖なことやら。

  戦の目的は膨大な資源や広大な大地、民。


  そして、強力な王国との貿易や関わりを保つ為の港。


  だが、ここでまた脳裏に閃光が走ったかと思うと、とんでもないことを生前の自分は考えていることが分かる。


  先程の目的もあるが、本当の真意というものは自分の中にあった。


  それはなるべく公にせず、自らの独断で成し遂げようとしたことである。


  アルカニスの姫巫女の力だ。

  神という空想の人物をまるっきり存在すると信じこんでいた前世の自分は、宗教の力で国を守ろうとした。


  その為には神聖な存在が必要となる、そこで隣国に不思議な力をもつ姫がいると聞き、密接な関係を築き上げるため、レトアニア王国と戦っているという情報を手に入れ支援をした。


  その結果、長規模な戦いになる。


  その大袈裟な目的を達成するため奮闘したが、殺された。


  結局、神という存在に媚びをうり、足の脛を齧った結果だ。


「あぁ!  もう!  やめだ!  やめだ!  こんなことを考えていては、気分転換にもならないし探検しにきた理由もない!」


  そういって自分を怒鳴り叱りつけると、大声を出しながら、森に向かって走り出した。


  何故か、声を出すと無駄な体力は消耗するが悪いことや気分を吹っ飛ばせるような気力が沸いてでてくるような気がするからだ。


「あれ?  おーい!  アーサーじゃねーか!」


「お前、バルハとアールか」


「なんだ、アーサーか。ここで何をしている」


  こっちが質問したいのだが逆に質問されて少し狼狽えるが、体制を立て直して得意げな顔をして言う。


「私は散歩だ!  この優雅な自然を久しぶりに堪能する為にな」


「久しぶり…?  まぁ、いいや。俺らはさ抜けられない聖剣グレイブルーセイバー??  とかいう剣を見つけてさ!」


  グレイブルーセイバー。


  生前で勉強した覚えがある。


  初代リトアニア王国の大王ジャネーブ一世がさした唯一の聖剣であり、それを抜いた者には永遠の栄光と、名声が約束されるという伝説上の剣だ。

 ──────そんなお伽話のような剣が実在するとはなぁ…


「しかも!  その剣な、初代の王様が抜いて以来誰も抜いたことが無いんだって!」


「へー、それで?」


「お前やってみろよ!  俺らがいた高台にささってるからよ!」


  そんなことを健気な笑顔で言うと、手を掴まれ連れられるがまま、その剣の前に立たされた。


  なんの威厳もオーラも感じられない。


  伝説によれば、魔力か何かで抜けたとかなんとか言っていたが、まあ結局は伝説空想上の物語だ、と何故か納得すると剣の持ち手に手を伸ばした。


「ふぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ!!!!!」


  抜けない。


 ─────アーサーとかいう物語に出てきそうな立派な名前しときながら抜けれないのか


  そんな愚痴を心でポツンと零す。


「じゃ、私は森に行くから」


  剣は諦め本来の目的の場所に行こうとするが。


  何故かバルハに止められた。


「あの森は迷いの森って言われてる!  今の時間帯に入れば一生戻れなくなるぞー!!」


  その言葉を聞き、背筋が凍りついた。


  腹を壊したかのように、見事に血相を蒼ざめると、震えた声で言い返した。


「ふ、ふん。それくらい知っていたさ!  ではな!  私はもうクレム先生のところに戻るからな!」


  そういうと、足をネジのように信じられない速度で回転させてその場から立ち去っていった。


  そして、また村の広場に戻ると、息を荒げながら慢心していた自分を一喝して落ち着いた。


  座っていると、無駄に聴力が良いのか村人たちの話し声や噂話しが、風のように耳に入ってくる。


「ザムンクレムの連中、やっぱり苦戦しているみたいだぞ」

「まあ、そりゃ都市国家だからなぁ。いつでも兵や総力戦、それに様々な都市に優秀な人材なんか余るほどいるからねぇ。それに複数都市国家、ましてや支配したアルカニスの領土も有効活用すれば、ザムンクレムも苦しめられるわな」

  予想通り、苦戦していることが分かるとホッと安堵したかのように下を俯く。


  元々、民や都市は王が統括して纏めるものだ。


  私が死んでから突発的すぎることだったので、余計に焦ったのか王の選択を精々間違えたのだろう。


  それか、わざと王をまだ幼い子供にさせ、ずる賢い大臣に操られているか、だ。


  それに、四天王という強力な神器を持った存在がその王国に顕現していたとしても、戦略や、人材に長けたリトアニア王国に負けるのは目に見えているだろう。

  ましてや逆に勝負を挑まれれば、一瞬で壊滅されることは間違いなしだ。


  そのうち、攻めても無駄ということに気づき、内政に力を入れて数年間は戦争はないだろう。


「さて、明日も訓練だ、全てを知る為には強くなるしかない…戻るか」


  そう呟くと、元王は先程ダッシュしすぎてパンクした足を庇いながら師の元へ戻っていった。





 小屋に戻る頃には空も真っ黄色に染まっていた。

 一方アーサーの脚は疲れ切って鉛のように重くなっていた。


 本当に体力がない。これから体力は徹底的に付けて行くべきだ。


「ん、クレム先生まだ帰っていないのか」


 小屋は無人だった。

 アーサーは水を飲み喉を潤す。


 アーサーはふと飲用水を見る。

 綺麗な水だ。この付近には川でも流れているのだろうか。

 これは先ほど渡った道を見て分かったことだが、今は春だ。

 春に咲く花が咲いていた。


 夏もすぐに来るだろう。

 ジーク達に聞けば川の一つも見つかるかもしれない。夏はそこで鍛錬出来たらと考える。


 ——魚が食べたい。


 それがアーサーの本音だった。

 アーサー、いやかのザムンクレム元王は魚が大好きなのだ。

 川さえあれば。

 明日にでも探そう。


 魚の味を思い出したせいか腹の虫が鳴く。

 その音を聞き、アーサーは苦笑する。


 今のは少し子どもっぽかったな、と。


 そういえば、とクレムの荷物の方へ視線をやる。

 そこには一式の鉄の鎧があった。

 重装騎士がするような重々しくも威圧があるタイプではない。寧ろ胴や間接部を守る軽いタイプだ。

 クレムの身のこなしはいつも軽やかだ。しかしその気になれば、走る馬車と並ぶくらいの速度を出せそうな気配がある。

 あの騎士は敏捷なタイプの武人なのだ。


 と、そこでバンとドアが乱暴に開かれる。

 すわ敵襲か、とアーサーは条件反射で椅子を蹴り小屋の入り口から距離を取る。

 だがその行動は杞憂に終わる。


「なんだクレムか」


 そこには血相を変えて何かを背負ったクレムが立っていた。

 否、それは誤りであった。

 クレムはそそくさと己の寝床に近付き、背負っているものをそこに下ろす。


「アーサー! 水と布を頼む!」


 一瞬戸惑ってしまったが、どうやら緊急事態らしい。アーサーは急ぎコップ一杯の水と、台所にあった湿った布を焦るクレムへと渡す。


「クレム先生、」


「女の子だ。道端で女の子が倒れていたんだ」


 何が起こったかを聞こうとしたところ、言い終わる前に解答が帰ってきた。

 道端で女の子。

 いきなり過ぎる展開だ。アーサーの頭はあまり追いついていない。


 アーサーが呆然としている間に、濡らした布を女子の額へ置くクレムは状況を確認するためか、アーサーに状況を伝えるためか言う。


「この女の子。村から出て一時間のところで倒れていたんだ。触れば分かるだろうが、高熱で倒れたと思われる」


 状況を説明され、アーサーはクレムのベッドで横たわる少女を見やる。

 夜の空を思わせる暗い青色の髪をした少女だ。

 苦痛で顔を顰めたその顔は特別可愛いという程ではないが、整っている。だが頬は紅潮し、口からは荒い息を吐いている。


 アーサーは体温を測る為、少女の首へと手を伸ばす。

 烈火の如く熱い。クレムの言う通り高熱だ。

 アーサーの手を熱い手が包む。

 見ると少女が薄く目を開いてこちらを見ていた。

 未だに息は荒い。だがそれでもこちらを見やる少女の目線には、助けを求めるようなものを感じた。


「助けよう」


 自然と口から出たのは慈悲の一声。

 アーサーは自分の手を覆う熱い少女の手を両手で握り、クレムへ目線をやる。


「そうだな。お粥と晩飯をつくる。アーサーは彼女の世話をしていてくれ」


「分かった」


 再び少女の方を見る。

 薄く開いてた目はまた閉じられている。

 だがその表情は幾らか安心している者の目であった。

 気のせいか、握る手から握り返される感触を受ける。


 よく分からないが今は少女を助けなければならない。

 どうしてか分からないが、アーサーはそんな事ばっかり考えていた。



■◾︎■◾︎


 少女の正体は?!

 気になる続きはhttp://kuhaku062.hatenablog.com/にて!