影の呟き

影さんの小説を主に飾るブログです。

ナイツロード外伝『大型魔竜大征伐 —音の女騎士と殲剣の邂逅—』その壱

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「はい。確認しました。ようこそ『都市ガリュメラ』へ」


 私(わたくし)は、多くの島からなるリーベルタース界陸の北西部に位置する城壁都市『ガリュメラ市』に来ていた。正確には私一人ではなく武器商人の護衛として雇われ同行した形だ。目的地が同じだったということで依頼に応じた。


「それではフィリアスさん、ハイトさん、モルタさん。このまま真っ直ぐアルト商会支部に行きます。着き次第今回の依頼終了ということでその場で報酬を渡したりなどの手続きを行いますので、それまでお願いしますね」


「分かりました」

「了解」

「はーい」


 アルト商会支部の場所は打ち合わせの際に聞いた話だとこの都市の中層圏にあると言っていた。南口からの入門なのでそのまま北に行く形だ。


 この『ガリュメラ市』は中心部に行くに連れて建物の大きさが高くなっていく特徴があり、外側から順に、下層、中層、上層の間で区分分けされて呼ばれているそうだ。

 傭兵や旅人などのいわゆるよそ者が利用するような宿屋は、この都市の下層。つまり都市の外側にある。当分の間は下層区の宿屋が私の拠点になるだろう。


 因みにこの臨時の護衛任務は私以外に二人の傭兵が雇われている。


 ハイトというのは全体的に黒い防具を軽装程度に身につけており、肌も髪も白い二十代ぐらいの細身の男性だ。薙刀の長いリーチを生かし、多人数を相手にしつつも間合いに入った者を攻撃する受動的な立ち回りをする。


 モルタというのは銀髪を二つ左右にまとめたツインテールの見た目十五、六歳ぐらいの女性だ。一見ひ弱そうな見た目をしているのだが、体質が特殊なのかとても力が強くガントレットの内部に仕掛けてあるワイヤーで相手を捉えて引き寄せて殴る。そんな単純だが長所を生かした戦い方をする。


 道中は魔獣の群れに襲われたりはぐれたと思われる侵略者組織『VICE』の構成員と戦闘になり追い払ったりと、治安がよろしくなかった。故に彼らの戦闘スタイルも把握することができた。


 それと私は彼らと違って〝放浪騎士〟だ。とある事情で母国から出て活動している。仲間や連れはおらず、足代わりとなっていた馬もこのリーベルタース界陸に来る際に海を渡らなければならなかったので、売ってしまった。なので今回は御者の代行をしたり、戦闘指揮などをメインに立ち回った。


 そしてこの二人とは偶々一緒に仕事をした程度の仲だ。だが恐らくこの二人は私と同じ目的でこの都市に来たみたいなので、また顔を合わせることになるだろう。

 

 

「ふぅ。いやあ昼前に着いて良かったです。それにしても人が賑わっているようですね」


「彼らも私達とそう変わらない理由でこの都市に集まっているのでしょう」


「違いない」


 この都市に来た理由。それは世界を脅かす脅威『VICE』に対抗するために組織された、対侵略組織『英雄機関』とその傘下である傭兵団『ナイツロード』が共同で主導する大征伐作戦。『大型魔獣大征伐』に参加することだ。


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 アルト商会支部にて依頼完了の手続きを済ませた私達は、この都市にある四方に伸びる大きな通りに出たところで挨拶交わして別れるところだ。


「それじゃあ自分は行くアテがあるもんで。これにて失礼します」


「はい。お疲れ様でした」


 ハイトさんはどうやらこの都市の近くの村出身らしく、同郷の知り合いが経営している宿屋に泊まって『大征伐』に参加するそうだ。


「フィリアスちゃんさんっ、フィリアスちゃんさんっ」


「なんですか?」


 彼女は私に対してこういった少し特殊な呼び方をする。因みにハイトさんや依頼主には普通にさん付けで呼んでいた。

 明らかに私に対する態度が違うが、特別親しくなるようなやり取りをした記憶がない。謎だ。


 モルタさんは「良かったらですけど」と前置きをして続ける。


「この後二人で食事しません? ほら、お昼ご飯まだだし。美味しい店教えますよ?」


 確かに手続きもすぐに終わって、昼食もまだだ。食堂もある宿屋を探して荷物を預けるついでにそこで食事をしようと思っていた。


「美味しい店ですか?」


「はい! 私、何度かここに足を運んでるので色々知ってますよ! 食事ついでにその色々を話すのもイイかもしれませんね!」


 確かに。現状私は大した情報を持ち合わせていない。これは食事を共にした方が無駄がないと言えるだろうか。

 ならばモルタさんと食事に行くのはアリだ。


「分かりました。一緒に食事にしましょう。できれば宿屋が経営しているところか、近いところがいいですね」


「まっかせてください! ささっ、行きましょう!」


 妙に嬉しそうにしながらモルタさんが先導して都市の中心部に向けて歩く。


「これから行く店はこの街の北部にあるんですよー。ショーユっていう調味料を使った料理がとっても美味しくて——」


「それは楽しみですね。お腹が空いてきます」


 よく話しかけてきて相手を飽きさせない気遣いのできるいい子だ。

 こうして、取り留めのない雑談をしながら、私は大通りを行き交う人々の様子を見る。

 やはり傭兵や商人がほかの街と比べ多く感じる。とても賑やかだった。悪くいえば騒がしいか。


 普通これだけ傭兵が集まるとその内の何人かの荒くれ者が騒動を起こしそうなものだが、そういったものが一切ない。少し気持ち悪いくらいだ。

 この街の衛兵も、最近の来訪者の多さもあり警備を強化しているのもあるだろうが、『英雄機関』と『ナイツロード』が主導の作戦が行われるというのも影響していそうだ。

 それだけあの二つの組織には影響力がある。


「ココです! 私のイチオシのお店!」


 歩き始めて約四十分ほど経ったくらいで目的地に着いた。『黒い白鳥食堂』というよく分からない店名の、店名以外特に変わった様子がない食堂だ。

 マギーア界陸の一部の部族が使っていたのが起源と言われている調味料の『ショーユ』を使った料理の芳ばしい香りが私の食欲を掻き立てる。この食堂への期待度が上がった。


 店に入り、テーブル席に案内され注文を訊かれたが、特に食べたいものがあるわけでもなかったのでモルタさんのオススメで頼んでもらった。 


 出てきたのは『アドボ』という料理だ。

 「酢に漬けた鶏肉などの具材を、醤油、ニンニク、砂糖で煮た」ものであるらしい。所謂〝マリネ料理〟に近いだろうか。

 甘い味わいの中にちょっとした酸っぱさがアクセントとして主張する美味しい料理だ。

 家庭料理のような温かさを感じ、少し懐かしい気分にもなった。


 モルタさんは『ラーメン』というものを食べていた。

 小麦粉に特殊な水などを混ぜ捏ねて作られた麺、タレを出汁で割ったスープ、そしてチャーシューという加工された肉を始めとした具で構成された料理。詳しくは知らない。だが多く食べると体に悪そうだ。


 お互いに食事を済ませたことで、やっと情報交換に移ることができる。まあこちらから出せる情報なんてそれこそないのだが。

 ただどういうわけかモルタさんは先程からニコニコしている。考えがよく読めない。


「そういえばフィリアスちゃんさんは、休日何してるんですか?」

「私の休日ですか。情報収集、鍛錬以外だと演奏ですかね……」


「え! 何弾いてるんですか!?」

「? いや、バイオリンとかギターとか色々ですが……」


「すごいですね! 聴いてみたいです!」

「ふふ、また今度聴かせてあげますよ」


 こういった会話ばかりだ。楽しそうで何よりだが、そろそろ本題に入りたい。切り出していくしかない。


 どうやらモルタさんはこのリーベルタースを転々としているというのを、私は先ほどからの会話から察した。話の展開を替えるならばここからだろう。


「そういえばですが、モルタさんはリーベルタース内の様々なところに行ったことがあるんでしたよね」

「ハイ! 拠点自体はここから東に行ったところにあるんですが、どうもジッとしてるのが性に合わなくて」

「東側からですか」


 東側……ここらに来てから得た情報の中には『VICE』でも特に強力で危険とされる〝「魔」の派閥〟の一つの軍がリーベルタースの東北側、特に北側をテリトリーとしている、というものがある。


 今回の作戦で『英雄機関』の者が来ているところを見る限りここガリュメラ市はまだ侵攻を受けていないと考えた方が良さそうだが、別の解釈として〝「魔」の派閥軍〟が活動をしていないかどうかの偵察と威嚇しに出っ張って来ているようにも見える。VICE構成員がいる可能性があるということだ。


 実際この都市に至る道中にもはぐれてはいたが構成員自体は居た。

 やはりそのどちらか、或いはその両方の意味もあるだろう。


 もっともモルタさんは「リーベルタースの東側に拠点がある」と言っただけだ。

 リーベルタースの東側は「VICE」の活動範囲であること以外には「ナイツロード傭兵団」の元本部現支部がある。治安は悪いだろうが、悪事が表立って横行している地域というわけではないはずだ。


 だが、ここではそういった話題で話したいわけではないので流していい話だろう。


「でも何故今回はこのガリュメラ市に?」

「それは勿論、英雄さんが主導してるってウワサの『大征伐』に参加するためですよー。お金も稼ぎたいですしね」

「そうですよね。私もその『大征伐』に参加したくて来ました」


 やはり。ここから話を展開して良さそうだ。


「ちなみにフィリアスちゃんさんって何処から来たんです? なんとなくここら辺の人じゃないなーって雰囲気ですケド」

「私ですか? パンタシアのとある王国から来ました」


「へ〜、パンタシアにもまだ王国ってあったんですね! それにしてもよくここまで来ましたね」


 ダメだ。またモルタさんのペースに流され始めている。興味深そうにこちらを見つめるその瞳には、そういった意図的な逸らし方をしているわけではないと思わせる好奇心を感じるが、今回は少し困るというものだ。


「ええ。色々ありまして」

「へえ〜。じゃあリーベルタースに来るのも初めてですよねー」


「そうなんですよね。情報収集しようにも知り合いも居ないもので」

「ん〜。良いですよ。私もそんななんでもかんでも知ってるわけじゃないですケド。知ってることなら話してもイイですよー」


 良かった。やっと本題に入れそうだ。


「それは助かります。食事代は私が持ちますよ」

「別にそんな意図があったわけじゃないデスよ! ただそのご厚意には甘えますねっ」


 安い経費だ。これまでの旅で「情報」というものがかなり重要であることを学んだ。軍の編成にも斥候部隊や偵察部隊があるのも分かろうものだ。


「ん〜。でも何から話せばイイか分かりません。フィリアスちゃんさんは何が知りたいんです?」

「そうですね……」


 私が今回の『大征伐』で知らないことをまとめると、


 ・そもそも討伐対象である『大型魔獣』どういった魔獣なのか。

 一部の噂しか聞いていないので、より信ぴょう性の高い情報が欲しい。


 ・『英雄機関』や『ナイツロード』以外にどういった顔ぶれが揃っているのか。

 過去に一度だけ味方の被害を考慮せずに広範囲に攻撃するような傭兵が居たので聞いておきたい。


 ・参加人数は大まかに何人か、そこから討伐できる確率はどれくらいあるのか。

 生存率に関わることだ。とても重要である。


 こんなところだろうか。

 ついでに宿屋も訊いておきたい。

 その旨を伝えた。


「ああ、まず討伐対象の大型魔獣ですね」


「ここに来る前、私達が初対面した港町のときに行った情報収集では『瘴気を吐き木々を朽ちらせるドラゴン』、『大の大人を一口で呑んでしまう巨大ヘビ』などがありましたが、どれも噂程度の内容だったもので」


「うーん。それが間違ったウワサじゃないんですよね」

「というと?」


「私の仕事仲間からの情報なんですけど、なんでも先週ぐらいに『ナイツロード』の人たちで偵察部隊を出したらしいんですよ」


 今回の作戦主導であり、実質主力になる組織だ。当然偵察部隊も出していただろう。


「結果分かったのは、フィリアスちゃんさんがさっき挙げた『瘴気を吐いて木々を腐らせる』『大人を一口で丸呑みできるぐらい大きさ』というのは合ってるんですよね」

 

「そうなんですか」


 意外と合ってるものらしい。訊けて良かった。


「ただ、ドラゴンでもヘビでもないんですよね」

「でもブレスが吐けるのはドラゴンだけだと思いますが」


 そもそもドラゴン自体は希少な魔獣だ。私も旅を始めてから三年ほど経つが、ドラゴンが出現したという情報は二、三回しか聞いたことがない。ブレス自体は有名だが。


「確かに、ドラゴンの一種と言えるかもしれません。竜は竜でも〝ヒュドラ〟ていう珍しい種類みたいなんですよね」

ヒュドラ……」


 確か洞窟などに潜んでいることが多いが、そもそもの数が少ないとされる、幾つかの首を持つ竜だ。都市が近隣にある山などに出没することが多いというのは学生の頃に学んだ。


「なんでも一般的に知られる、五メートルで首が三、四本のヒュドラよりも特殊で危険性が高いそうです。大きさとか首の数までは知らないですけど『英雄機関』や『ナイツロード』が出っ張って来るくらいには強力なんでしょうね」

「なるほど」


 確かに「瘴気のブレス」を複数の首から吐けるとしたらとても危険だ。都市を攻撃されれば、それはもう災害とも言えるだろう。


「大型魔獣で知ってるのはそれくらいですかね〜」

「有難い。後は、そんな強力な魔獣に対して『英雄機関』や『ナイツロード』以外にどんな傭兵団が来ているんです?」


「ん〜そうですね——」


 モルタさんが挙げた組織名はどれも聞いたことがあるような傭兵団や魔獣討伐を専門とする組織だ。特に悪い評判のある傭兵団はないらしい。


「あ、それと今回の作戦に来る『英雄機関』の人は『蒼豹のエゼルル』と『百矢のシュトラ』らしいですよ」

「『百矢のシュトラ』は知らないですが、『蒼豹』は有名ですね。やはり来てましたか」


 『蒼豹のエゼルル』。マクメメー出身の〝獣種の英雄〟だ。身の丈以上の大太刀を振り回し、地上だけではなく空中すらも縦横無尽に駆け巡っては並大抵の者では防げない速度と力で斬撃を叩きつけることで知られている。

 こういった大規模な作戦ではよく耳にする名だ。


「『ナイツロード』からは総勢五十人くらいの精鋭が来ているそうです。指揮官は『殲剣のイルヴァース』とは聞いてますケド、正直これは仕事仲間の人も又聞きらしいですね」


 『殲剣のイルヴァース』。恐らく『英雄機関』所属の者を除けば最も有名な剣士の一人だ。

 『聖剣の一振りに魅入られ、一国をも滅ぼした』というもはやおとぎ話の領域のような経歴を持つ剣士だ。

 そこからどういった経緯からか、正気を戻し『ナイツロード』の幹部の一人として現在活動している。業界の中では割と周知のことだ。


「ならば戦力としては申し分ないですね」

「そうなんです! 手抜きはできないですケド、報酬もイイですし参加しておきたい作戦ですよね!」


 報酬もよく、この作戦に参加したことは〝良いキャリア〟になる。

 良い仕事、だろう。


「後は明後日行われるらしい『大征伐作戦会議』で詳しい情報が聞けると思います」

「そうですね……やはりそこで聞くのが一番ですね」


 その方が一番確実で多くの情報が入るだろう。結局そういう結論に至った。


 話に一区切りがついたところで、食堂を出た。もちろんお代は払わせてもらった。


 その後、モルタさんと一緒の宿屋に泊まることになった。一応部屋は別々だが、何度か一緒に行動することになりそうだ。

 土地勘があり頼もしく、退屈しのぎにもなるので良いことだ。

 

 

 次の日はモルタさんと一緒に包帯などの必須な消耗品などを買い物したり、食事などして過ごした。


 そして更に翌日、一緒に『大征伐作戦会議』に出向くことになった。

 顔合わせと、作戦の確認、参加手続きなど諸々行うのもそこだ。

 


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——ここから前書きにする予定だったけど、取り敢えず読んでほしかったので後書きにしたもの——

 

 ども、影さんです。以前書いてた『音女の騎士と、殲滅の剣士』は、結局ボツになったので今回書き直してます


 アレから結構〝ユースティア〟という世界観の設定が色々更新・変更されてる(詳しくはこちら)のでまあまあ内容も替わってたりします。(いうて前回のも結局ホンへまで入ってないから大した差はない)

 そんな〝ユースティアという世界観〟を知ってもらいたい前知識が無くても読めるものを書きたいというコンセプトの下、今回書きました。


 それと、どうやら私が小説もどきを書くと長くなるっぽいので3、4話構成でいきます。

 書けるかのかどうか疑わしいでしょうが、長い目で見てもらえればと思います。

 

続く。といいなあ……