『零影小説合作』第十五話〝未練の鼻歌〟
どうもお久しぶりです。影さんです。
メチャクソ久しぶりの更新です。
最後の更新から二年近く経っていますね。
その間にやったことといえばオフ会とフィリアスさんの設定を考えるのと棒バト合作ばっかりやってたとかそんな印象ですね。
……フィリアスさんの小説も書かないとなあ……
先日もゼロ君とオフ会し、少々この小説について今後の大まかな流れについて打ち合わせしました。
基本的に大まかな流れに従いつつも、アドリブで行き当たりばったりに進めていく感じになるでしょう。
打ち合わせの時、ゼロ君が序盤で「なんでこんな新しい設定をポンポン置いたんだ俺……」って喚いていたのが印象的です。
ともあれ、久しぶりの更新。あれから全然文章書いてなかったので、色々変なところがあるかもしれませんがどうぞ温かい目で見守ってください。
では本編をどうぞ
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☆
駆ける、駆ける、駆ける。
目的はなく、ただ衝動のままに駆けていた。
「待ってくれ! ジーク!!」
喉元を震わせ、ただ目前に立つ小柄な背中に叫び追いかける。
さほど距離感は覚えないというのに、どうしても肉薄のできる距離まで踏破する事が叶わなかった。
筋肉が軋み、息急き切りながらも名前を呼び続ける。
夜にも似た陰鬱な暗闇が立ち込めるの中で、悲壮な雰囲気をだすジークの背中は翻すことを忘れただ先を見つめていた。
体力が削がれる感覚が浅薄となる度に、足と地面が擦れる心地に違和感が走る。
どれほど走り続けたのかも既にどうでもよかった。
「すまない、アーサー」
その一言に感化されアーサーは歩みを止めた。
アーサーを息を切らしながら表情に一筋の汗が灯る。
しかしその汗は単なる疲労の産物ではなく、目の前のジークに対する冷や汗にも似たものであった。
「ジー、ク?」
胡蝶蘭のような白髪は赤黒い血に染まり、その足元には蒼白とした表情で倒れこむ幾ばくもの鬱積とした骸がジークに手を伸ばしていた。
「なぁ、アーサー。お前は、人を殺したことがあるか?」
人を、殺したこと。
アーサーの要領と打算を遥かに超えたその冷え切った言葉にただ息を潜め下を俯くことしかできなかった。
俯くと同時に両腕に力がこもる。
どういう、感触なのか、感情なのか、重いのか軽いのか、それすらも今のアーサーには理解の及ばない領域であった。
「ジーク、どういうことなんだよ。お前に何があったっていうんだ!」
ジークに向けて言葉を発したその瞬間、アーサーの死角に気配が走る。
完全に動揺していたアーサーは一歩反応が遅れてしまったアーサーはどこからか伸びてくる痩せ細った皮だけの手に拘束される。
「クソ! 離せッ! ジーク、ジーク!!!」
その腕からは連想できない恐ろしいほどの筋力に抗拒し続けるアーサーとは裏腹に、ジークはその紅色の月のような瞳を翻す。
その瞳にはあの頃の面影は含まれていなかった。
絶望と渇望に揺れ動いてもなお、その瞳の鼓動には高みを望み続けるという強い意志の鼓動を感じさせられる。
その瞳の冷酷さと容赦のなさに接ぎ穂を失ったアーサーの身体は容易にその腕たちに絡まれ、呑まれていった。
「……ッ!!」
そこでアーサーは意識を覚醒させた。
緊迫とした身体には力がこもっており、多少の疲労感を覚えるが実害が及ぶほどではない。
なんとか憔悴した身体に力を束ね、ベッドから起き上がるとアーサーはジークが登場した夢の内容を再び思い出す。
ジークの変容してしまった姿と、その下に積まれた幾ばくの骸たち。そして絶対的に立ちふさがる壁を思わせる纏う雰囲気。
夢だけの出来事であってほしいと願いつつ、アーサーは外へと向かった。
★
「ねー、今日は何処に行くの?」
「なんだ、その毎日何処かへ遊びに行ってる貴族の子どもみたいな聞き方は。今日中に隣の『キャクルエ』という村に行きたいところだな」
いや、貴族の子どもであることには誤りはないのか。
そう思考しつつ律儀に返答するアーサー。
時刻は昼前。悪夢を見て飛び起きたアーサーは、寝覚め悪くもエノ達が起きるまで日課の鍛錬をした。村民達も起きて洗濯を始めたり農具を持って畑に向かったり、村に活気がではじめたくらいの頃に起きた寝ぼけ眼のエノ達と共に少し遅めの朝食を済ませ、宿の精算を終え村を出た後である。
『キャクルエ村』。これはアスタロトに昨夜指された次の目的地である。都市に入れず困ったというタイミングで都合良く現れ、解決策を示す。
怪しすぎる。可能ならば彼女の導いた路を使わずになんとか首都まで行きたい。
しかし、第三都市ライダパールを通らず首都まで行くとなると、比較的治安が良く安全な街道から外れ、北は林、南は河川を通って首都に行かなければならない。
林は猛獣に襲われる危険がある上に補給がままならない。河川は食材や水の確保はできても結局野宿になってしまう。反対側は森に面しており、こちらもやはり猛獣などに襲われないという保証がない。
つまり都市ライダパールは避けて通れず、しかしその都市には普通の手段では入れない。
結局はあの赤い悪魔が教えてくれた手段をとることしかアーサー達にはできないのだ。
(ああ。忌々しい。何故私があの得体の知れない存在の掌の上で踊らなければならないのだ。ただただ忌々しい)
アーサーは心の中でそう悪態を吐きつつ、きびきび歩く。
「その、キャクルエ村に行ってどうするの?」
エノがアーサーに問う。
当然の疑問だ。エノ達からしたら村で取り敢えず落ち着くと思った矢先に急に次の目的地ができたのだから。
「ああ、それは——」
咄嗟に聞かれ、刹那の間にアーサーは言い訳を考える。
「まあなんだ。食事後、お前達が部屋に戻った後に食堂で拾った情報でな。『キャクルエ村で都市へ続く隠し通路がある』という情報を得てな」
半分嘘だ。食事後、情報収集をしたのは本当だが拾った情報はこのパフーム村周辺地理と現在の周辺国家の情勢だ。
「ふーん……」
「……なんだ」
エノは納得したのか微妙な表情でアーサーの目を見据える。
アーサーはなんてことない顔をしつつ、何故か背中を冷や汗で濡らす。
ジャーナは歩きながら鼻歌混じりに石を蹴って遊んでいる。無邪気すぎる。
「なにも。どれくらい歩いた先にある村なの?」
「あ、ああ、馬を用いて三十分程度らしい。恐らく私たちの足で二時間半くらいだな」
心の中で溜息を吐きつつ質問に答える。
相談なしに私の独断で決めていることに不満があるのかもしれない。
直近の目標は騎士叙勲を受けることであり、それは首都でのみ行われる。具体的に何をすれば平民が騎士になれるかは分からないが、今は戦争中だ。いきなり騎士にはなれないかもしれないが、前線での武勲次第では望みはあるだろう。
問題はこの国——『アルカニス王国』を吸収した『レトアニア連邦』——が今争っているのは生前私が統治していた『ザムンクレム王国』であること。国王だった時は正直そこまで民を愛していたわけではないが、しかしやはり自分に忠誠を誓っていた臣下達と敵対するのには戸惑いがあるものだ。
まあ今のうちにそんなことを考えても仕方がない。まずはこの国の兵になって前線にでなければ意味ないことだ。
「それにしても、治安がいいな」
歩き始めて一時間半が経ったくらいで休息と昼食をとっているなか、私はそう呟く。
こんなガキ一行が徒歩で移動しているにも関わらず、盗賊に襲われない。
そう簡単に盗賊ごときに負けるつもりはないが、女二人をかばいながら闘うのは厄介な展開だ。キャクルエ村に移動する行商人かなんかを見つけてから同行したかったところだったが、パフームからキャクルエに行こうとする者が居なかった。日が悪かったか、キャクルエに行きたがらない理由があるのか分からないが。
止むを得ず徒歩での移動となってしまった。それでも盗賊に襲われずにいるのは運がいいと言えるだろう。
危険がないので変に時間かかることがなさそうだ。
「レトアニアの騎士は強くてすごいからね!」
「そうなんだねー」
誇らしそうにするジャーナに対し、エノが苦笑を交えつつ相槌を打つ。
予定では昼過ぎに村へ着き、宿を見つけてから村人と接触するというものだ。今日中に『リアーン』という者に会えれば重畳だ。急ぐとしよう。
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次回はいよいよキャクルエ村に着きますね。
首都到着まで3/5と行ったところでしょうか。
次回をお楽しみに!