『零影小説合作』第七話〝真否と危険〟
油断した時が危ない的な台詞って、大体強キャラが発しますよね。
今回は言われる前に危険が彷徨って来たようです。
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エノ、不思議な少女だ。
見ているだけで落ち着くし、何故か自然と見惚れてしまう。
声もまるで、小鳥の囀りか白色透明のように透き通っている。
そこそこ、美少女と言っても過言ではないであろう。
高貴な姿やオーラを出しながらも、貴族や王族特有の自尊心というものが一切と見受けられない。
前世では自らの行う政治などに、不満や文句などなど口々に言い張る貴族ばかりであったが、このエノという少女となら良い政治ができそうだ、と何故か王様時代の気持ちに戻ってしまった。
そんなことを小さな岩に座りながら考えていると、後ろから頭に向かって小さな木刀が振り下ろされ、コツンと良い音がなる。
「いった……」
後ろを振り返ると、異常に眩しい太陽の光が襲い、思わず手を翳してしまう。
「今日は妙に日差しが強い日だね。そこで、それを直感的に見れているかどうか、ちゃんと周りを見ているかということを知りたくてね。どう? ちょっと賢いこと言ったでしょ?」
そんな軽やかな口調で、光を背に言うのはクレム先生だ。
「分かってますよ、今行きます」
小さな笑顔を掲げ、また鍛錬を行う原っぱへと戻って行く。
「今日は、エノの衣服やらを買わないとな。あのままじゃ可哀想だし」
「そうですね。でも、女の子だからって先生また変なもの選んじゃダメですよ?」
アーサーは睨むようにして、クレムを要注意した。
アーサーにはとある私憤があった。
クレム先生と小屋で住むようになってから約一日目、衣服が無い為、おおきな街に繰り出し購入した。
ここまではいいのだが、この人はドレスをなんの躊躇いなく購入してきた。
理由は、金髪が珍しいから、だそうだ。
金髪はこの時代、女の方が割合が高く男は少なかった。
若い男などは昔から戦場に駆り出され、その遺伝子を残すことなく散っていった。
そして、やはりそのような壮麗な髪は貴族などの裕福な家庭などが多い。
なんとなく分かる事由だが、男の本能的に女物を着るなど、到底拒絶する。
それを断ると、なんと急に肩を落とし足を正座のように曲げると、クレム先生は目を覆うようにして泣き出したのだ。
そのようなお洒落、というより着物の類についてはかなりの自負心があったらしく、騎士道をもとることより辛いことであった。
結局その服は着ることなく、小屋の主軸となる大黒柱に貼り付けのように飾られた。
「分かってる! 分かってるってば!」
そんな焦燥をしながら、三人が鍛錬する場所に戻り再開した。
夕刻、鍛錬も終了しいつも通り小屋に戻った。
汗で塗られたぐっしょりなシャツで、小屋の外に流れる川の水で顔を洗っていると声を掛けられた。
「アー、サー…」
それは、綺麗な街娘が着るような服を着たエノの姿だった。
「エノか。中々似合っているぞ、その服」
「そ! そう、かな。えへへ……なんか嬉しい」
頬を赤くに染め上げるアーサーは、可愛いと感じるより何故か愛らしいと感じた。
「まるで、レテナのようだ」
そう言うと、また頭の奥で閃光が迸った。
このようなことは短時間に偶にあるので、完全に馴致したのかと思っていた。
だが、今回のは純度、というより脳に掛かる衝撃が違う。
踏襲ができない。
ーーレ、テナ? 誰だそれは、一体何故言った。
「あっ、ぐっ、あああっ!」
頭を上下に振り、狂乱したかのように叫び声に近い声を荒げる。
無意識に不意と起こったことなので、衝撃の後の深淵があまりにも深く余震のようなものが襲う。
「ぐっ、あ!」
その途端、目から潤みが消え去り全身の力が消失してその場にバタンと倒れこんだ。
「アーサー!? アーサー!!」
身の危険を感じたのか、木の裏に隠れていたエノが駆け寄った。
★
目が覚めると最近見慣れつつある天井が視界に入る。
身体を起こすと、頭の中身をグチャグチャと掻き回すような不快感がアーサーを襲う。
「アーサー、大丈夫?」
「……エノ」
声を掛けられた方へ顔を向けると、そこにはエノが寄せてきたと思われる椅子に座っており、その整った顔を傾けていた。
「ああ……大丈夫だ」
この身体になってから頭痛と失神と妙に縁があるようだ。
体質なのだろうか。
そこでふと、疑問が浮かんだ。
「エノ。私をどうやってこの小屋まで運んだ?」
「僕をお忘れかな? アーサー」
そう言って視界に捻じり入ってきたのはクレム先生であった。
——しまった。エノに意識が行ってしまい、完全に忘れていた!
「やれやれ。先ほどもそうだが、余り視線を送り過ぎても怯えられるだけだぞ? ア・あ・サ・あ・君」
「……?」
「五月蠅い!」
皮肉げに言うクレム先生に、エノは首を傾げ、アーサーは怒鳴り散らすというそれぞれがそれぞれな反応を見せる。
しょうがないのだ。年頃(ジーク曰く十歳らしいが)の少年に、あんな美少女を置くと、それそれは目線も意識も行ってしまうものなのだ。
しょうがない。これは自然の理、世界法則なのだ。仕方が無いったら仕方が無いのである。
「にしても君はよく倒れるな、アーサー君。体質なのかい?」
クレム先生が口にした質問は、アーサーが数分前に浮かべた疑問のそれとほとんど同じ内容であった。
過去の記憶を思い出そうとすると、出てくるのは記憶では無く頭が引き裂かれるような激しい頭痛だ。
——それはまるで、不審な人物が都に入ろうとして、門番に摘み出されるような、そんな印象を受けるものだった。
「はい……まあ、そんな感じです」
アーサー自身ハッキリしていないので、取り敢えず適当に返事することにした。
アーサーはそういえばと別のところへ意識を移す。
——それはこれ以上、『記憶』のことについて考えたくなかったからかもしれない。
「そういえばクレム先生。私はどれくらい眠っていたのですか?」
「ああ、約八時間くらい、かな。もう朝だ。君用に朝食を作っておいた。夕飯も食べていなかったからよく食べるように」
クレム先生はそう言ってテーブルの上に置かれた皿を、顎で示す。
だがその口調はまるで、
「どこかへ行くのですか?」
「ああ。僕とエノは先に食べたからな。エノの服をこの村の雑貨屋で買おうと思って。服は未だしも、女用の下着を騎士様が買っていると思われると、アレでだな……」
「ああ、なるほど。分かりました」
エノの顔ばかりに目線を送っていて、そこまで考えてなかったアーサー。
だが確かに、クレム先生一人が行くとアレだし、かと言ってエノ一人だけに行かせるのも心配だ。
アーサーも行きたかったと思ったが、タイミングが悪かった。
止むを得ないという考えと少し刺激が強過ぎるなという考えで、自分を無理矢理納得させる。
「クレム先生。決してエノに危険が無いようにお願いしますね」
「肝に銘じておくよ」
暗に「血迷ってエノを襲うことが無いように」と皮肉るアーサーに対して、またもや不細工なウインクを送るクレム先生。
正直不快である。
「では、行ってくるよ」
「大人しく、しててね。アー、サー」
「気をつけてな。エノ」
出発を告げる二人とエノにのみ挨拶をするアーサー。
早足で出て行く二人を見送ってから、アーサーは小屋のドアを閉める。
さて、朝食を食べようと椅子に座ったところで、ドアがノックされる。
——トン、トントントン。
アーサーは二人が何か忘れ物をしたのだろうと思い、ドアノブに手を掛ける。
なんだかんだでうっかり屋の二人だ。よくあることだろうと、そんな平和なことを考えながら。
——それはエノという大きな存在に浮かれ、気が抜けていたからかもしれない。
はっきり言って、アーサーは油断をしていた。
「なにを忘れたんだ、クレムせんせ——」
「は〜あぁ〜い」
扉を開いて現れたのは、安心感を与える落ち着いた青髪では、なかった。
そこに現れたのは危険色の赤色だった。
「なッ……むぐっ!」
「はーいはーい。静かにね〜ぇ」
口を手で塞がれて小屋の中に押し込まれる。
その勢いのままに、アーサーは赤色に寝床まで押し込まれ、やがて押し倒される。
「また、二人でお話、しよっか?」
アーサーの紅い瞳に映るは赤髪の少女——のような悪魔。
「アスタロト、だよ?」
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ドキドキ! 赤髪美少女と二人っきりのお留守番!
気になる続きはhttp://kuhaku062.hatenablog.com/にて!