『鬼魔王』第一話
日常回。
短めなのかもしれないけども、これくらいのペースで行こうかと。
話によって長くなるだろうけども。
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『鬼の魔王は平和好き』
第一話『日常』
ここは大きさにして地球程の大きさしかない『ミュルニマ』という世界。
そしてそこに存在する巨大浮島大陸、『シャーデラル』のほぼ中央に存在する、人族の王が統べる国で最強の王国。『パライアテル王国』。その東に位置する辺境の田舎町『アラパイ』。
王都の湖から伸びる川が、町を半分に割るかの様に東へと伸びる。
町の周辺は、草原になっており、西に行けば王都へ、東に行けば国の外で行き止まり、北に行けば城壁に囲まれた街があり、南には森が存在する。
そんな田舎町である。
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「おーい、『勇者』さんよぉ。ちょいわりーがこっち手伝ってくんねーか?」
木にもたれて昼寝していた所を、いつもの麦わら帽子をかぶり、白い顎髭を伸ばした中年に起こされた。
知り合いだ。
時々飯をご馳走してくれる、バツイチのあのネルサのおっさん。
「ふわ〜ぁーあ、っと。あー、ネルサのおっさんじゃないですか」
「おーおー、寝ていたとこすまねぇな、リオール。仲間と木を伐るのに行こうと思ったんだが、人手が足りなくてなぁ」
「つまり『いつもの』、ですか。めんどくさいなあ」
と、口では言いながらも俺は溜息をつきながら立つ。
気付けばもうお日様天辺じゃないか。仕事手伝ったら昼飯食わないとなあ……
このおっさんは職業が樵で、依頼を受ける度に南の森で、木を伐採してくるのが主な仕事だ。
よく手伝わされる。
もっと人員増やせば、俺もこう手伝されなくて済むのだが。まあ、こんな田舎町の人口的には無理なんだろう。
しょうがないなあ……
「へっ、リオールお前。まだ昼飯食ってないだろ。ご馳走したるから頼むぜ」
「ほい来た。ならば善はすぐ逃げると言いますし、早く行きましょう。そう、素早くね!」
「へっ! 調子の良い小僧──お、おい! 走るな!」
小僧なんて。
先日十八歳になったのに。
まだまだ小僧なのかなあ。
ひとまず、おっさんを置いて南の森まで走った。
数分後、追ってきたおっさんにこっぴどく叱られたのであった。
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『アラパイ』の南に歩いて一時間くらいの所に存在する森、『パラライの森』。
規模としては『アラパイ』より倍近くあると言われている。
この森を更に南へ行くと、『パラル』という町があり、更に進むとまた森へと入る。
この世界の森は、動物にとって住みやすい環境になっており、どこの森にも動物や魔物が住んでいる。
そして多くの生物が居るところには、『気』とも呼ばれる超自然的エネルギーが溜まりやすくなり、魔物が活発化したり、動物が魔物に変異したりする。
人に害を与えるというのが魔物。戦う術も無く森に入るということは、自殺行為とも言える。
現在、この『パラライの森』には樵の集団と一人の『勇者』が来ていた。
「んじゃあ、リオールよ。色々と頼むわ」
「はいはーい」
『勇者』ことリオールは、このネルサのおっさん達が木を伐採する度に一緒に森へ来ている。
ここでのリオールの役割は主に、『護衛』と『伐った木を運ぶ』、である。
ネルサのおっさん達も戦う術はあるが、リオールが居れば安全が確保された様なものである。
リオールは神託で選ばれた『勇者』なのだから。
「ま、『勇者』としての役割はまだなんですがね」
「そういえばそんなこと言ってたな。半年後に動くんだっけか」
「ええ、まあそんな感じですがね」
半年前、リオールは夢で『神を名乗る者』から『お告げ』を受けた。
『リオール・アルデバランよ。其方は『勇者』となり、一年後、『魔王』と手を取り、世界を平和へと導くのだ』
夢から醒めた時には、枕元に『勇器:アルデ=バルデ』が置かれていた。
これは『創世記』にて『人神アルス』が使っていた神器と言われており、『人の害』になるものを、全てこの神器で叩き潰したという。この伝説はこの世界では有名である。らしい。
ネルサのおっさんがそう言ってた。
あるいはあの夢に出てきた神が『人神アルス』だったのかもしれない。
「そういやぁ! お前さんの! 従弟のハインケルとかいう! 小僧あれから戻って! 来てねぇ! なぁ!?」
作業に集中してくれないかなあ、このおっさんB。
ヘマしたらからかうだけだが。
「あれから音沙汰無しですからねぇ……王都に居ると考えたいのですが……」
そう、二歳下の十六歳の従弟であるハインケル・グランダル。
彼は二ヶ月ほど前に「僕が真の『勇者』になる!」とか言い出し、町を出て行ったしまった。
彼は『勇者』という存在に憧れというか、拘りを持っていた。その一方魔族を憎み、『魔王』を嫌悪していた。
それ自体は別に珍しくない。寧ろこれが一般的だ。
だがハインケルのそれは過剰とも言えた。
害になるものは全て「魔族のせいだ」と決めつけ、「『魔王』はすぐに死ぬべきだ」と口癖の様に言っていた。いやもう口癖と言っていい。うん、口癖だな。
そしてこの俺が『勇者』に選ばれた時はハインケルも喜んでいた。
だが「一年後に動く。『魔王』は殺さない」と聞いた瞬間、ハインケルは激情を露わにした。
「『魔王』は殺すべきだ。今すぐに」と。
ハインケルがなぜ、そこまで魔族を憎んでいるか。
それは魔族に両親を捕われた事に起因する。
これは5年前に起こったことなのだが、未だにその両親が戻ってこないところを見ると、殺されてしまったのかもしれない。
そして俺が『勇者』になってから4ヶ月。ついに痺れを切らしたのか、『勇者』になると言って出て行ってしまった。
俺が用事で居なかった間に、である。
だが彼はもう一人で生きていくのに必要な能力は持っている。彼も冒険がしたいお年頃なのだ。
「おいリオール! 魔物だ! グリウルの群れだ! 速くこっち来い!!」
と、従弟のことを考えてたらおっさんA(ネルサのおっさん)が怒鳴られた。非常に鬱陶しい。
グリウル。緑色狼。
グリーンウルフが正式名らしいが、略してグリウルと呼ばれている。
危険度E。群れていればDと言ったとこか。
最低限闘う術を持ってる奴らが集団でやれば、倒せる魔物だ。
割とどこの森にも居るらしい。
見たところ今回は四体か。
ま、俺なら『勇器』を使うまでもなく、数秒なんですが。
まあ、暇潰しには丁度良いのかな。
俺は準備しておいた普通の片手剣を右手に持つと同時に、姿勢を低くし、柔らかい土を軽く蹴った。
素早く距離を詰め、相手の反応が遅れている間に、その緑色の首を斬る。首が落ち、血飛沫を上げ、倒れる。まず一体。
そして最初のグリウルの右側に居たグリウルBが、噛み付こうと跳んで来るが回避する。が、すぐ後ろからまた別のグリウルが襲ってくる。相変わらず連携の出来る魔物だ。
俺は振り返りざまに剣で払う。襲ってくるグリウルCの顎に命中。そのまま血を撒き散らしながら右の方へぶっ飛んで行き、木にぶつかりドンと音を立てる。
トドメを刺そうと向かおうとしたところ、左右同時に二体が襲ってくる。俺は後ろに回避。
二体のグリウルは交差し着地するし、こちらに赤い眼を向け、グリウルCを庇う様にグルルと威嚇をしている。
ま、この程度なら怖くない。遊んでるようなもんだ。ちょっとはしゃぐかな。
そのまま俺は軽く前へ跳躍。二体のグリウルを飛び越し、手負いのグリウルCの前で着地。木にぶつかった時に気絶したらしい。グッタリしてる。と、そこで二体のグリウルが後ろから襲ってくるのを感知した。予定通り。
そのまま俺は真上に跳躍し、剣先を下に向け、『気』を集中させる。
そして着地と共に弱い衝撃波が発生する。弱いと言っても大の大人5人はぶっ飛ぶくらいの威力はある。
体長1.2メートルくらいのグリウルだ。容易くぶっ飛んだ。因みに手負いのグリウルCは、着地の際に剣をまともに受けて死んだ。
二体目。
さて、ぶっ飛んだ残り二体。片方は弱りつつも立ち、もう一方は骨をやったのか倒れながらこちらを睨んでいる。仕上げとするか。
俺は素早く動き、まず倒れている方へ。剣で胸辺りを刺す。三体目。
そしてそのまま真っ直ぐ最後のグリウルに跳び、横に一閃、首が飛ぶ。フィニッシュ。
綺麗に死んだグリウルAの肉が昼飯のおかずになるだろう。
剣に付いた血を払い、鞘に収める。5分程度ってところか。まあ良い。
毎朝鍛錬をしているとは言え、定期的に戦闘しないと鈍るからな。
そうしてる内に、おっさん達の作業も終わったらしい。
「おーい、リオール! 昼飯にすっぞ!」
「はーい、すぐ行きますー」
いつもより少し遅めの昼飯の時間だ。
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今日のおかずは次の通りだ。
・アラパイ産の野菜を炒めた野菜炒め
・イア牛の牛肉焼き
あとはライア米と新鮮な水か。
俺が狩ったグリウルは食わずに売るらしい。
全てネルサのおっさんが用意したんだとか。マメで準備の良いおっさんである。
なんで嫁さんと別れたんだっけか……
とにかく食事中である。
「そういやぁ『勇者』」
「ん? なんです?」
そういえば皆に俺が『勇者』になったと知られたのは、確かハインケルが言いふらしたからだっけかなあ。
隠す理由は無いが、こう勇者勇者呼ばれるのもなんか違う感じがする。分不相応というか。
「王様が噂の『勇者』とやらを探してるらしいぜ。俺の信用できる筋からの情報だ。本当にちげぇねぇ」
「なんで情報屋を雇ってるんですかねえ……どうせ行商人だかの話でしょう?」
「へっ! 言いたかっただけだ」
そうして他のおっさん達と一緒にゲラゲラ笑い出す。呑気なことだ。
「しかしさて、国王がですか……」
こう見えても今後、俺の使命の邪魔になりそうな奴の情報は集めている。
半年も何もしないで居るのは流石に時間の無駄だからである。
パライアテル四代目国王、レスト・ファラ・パライアテル国王。
確か彼は魔族を非常に嫌悪しているのだとか。
そして使える手駒は効率良く、そして無駄にならない様に戦争へと参加させるのだとか。王としての器はあるそうだ。
その王様が俺を探す。理由はやはり『魔王』討伐か。
「ふーむ。少し隠れなきゃいけないかもしれませんねえ」
「おうおう。そうしろそうしろ。俺の十倍くらいの働きができるのに手伝ってもらうことは、ちと痛いがまあなんとかなるしな。当分隠れた方がお前の為だろうよ」
「ん、ありがとうございます。こんかいは言葉に甘えざる得ませんね」
「噂によりゃあそらもう全力で探してるらしいぜぇ? あの『武王』様とかも探してるんだとか」
「え、ええ……」
何それ、いつの間にそんな凄いことになってるんだ。
「へっ! 冗談言ってリオールをからかうんじゃねえよ。こいつなんだかんだで臆病なとこあっからなあ! ヘハハハ!」
「そいつぁすまねえな! ハッハハハ!」
「はあ」
よく臆病と言われる。俺としては慎重に動いてるつもりなんだがな……
「へっ、わりいわりい。実は町の外れに小屋があってよ。そこに隠れるのはどうだ『勇者』よ?」
「ほう、それは良いかもしれません」
「うしゃ! 決まりな! 俺の知ってる限りでは誰も住んでねえはずだ。今夜にも引っ越しとけ。なあに。グランダルの家は俺が面倒見てやらあ」
「ありがとうございます」
ネルサのおっさんはなんだかんだでいつも面倒見てくれてる。もうそろそろ自立するべきなんだけども……まあ『勇者』の旅で自立することになるんだろうが。
そうして昼食は終わり、休憩してから伐った木を町へ運ぶ作業へと移る。
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作業が終わったのは昼下がりであった。町に戻った時には子供達が走り回り遊んでいた。
一汗かいたので家に帰り体を清めたついでに衣服をまとめて引っ越しの準備をしようとした時である。
コンコン。
ドアを叩く音がした。
「はーい、よっと」
「こんにちは」
そこにいたのは黒い上品そうな偉そうな服でその豊満であろう体を閉じ込めた、キリッとした女性だった。
「どちら様で?」
「王都の者です」
王都っつぅと……
「貴方を王都へとお連れする様、王に言われ出向いたまででございます」
俺の日常が終わった時であった。
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どうでもいいけど、リオールさんはフリーターでアルバイトしてお金を稼いでます。
樵の手伝いもそうなんだとか。
『鬼魔王』プロローグ
修正&再投稿。
小説の書き方みたいなそういうものを読んで「これは直さんとな」と思ったので色々修正しました。
勿論プロットも作成済みですよん。
まだ一章までなんですが。ぼちぼち進めていくつもりです。
せめて処女作は完成しないと、また書くとき不安になりますからね。
「未完成の傑作より完成の駄作」というものです。駄作だろうとなんだろうとまず完成させて経験を積みませんと。
「影さん、小説家目指すの?」と思われるかもしれませんが、あくまで創作活動の一環ですね。
うごメモで動画として創るのはかなりの労力と時間を喰いますし、漫画も同じで更に漫画を書く技術と知識、相応の画力がありません。
小説ならば、と思った次第です。小説舐めんじゃねえぞと殴られそうですね。
ではプロローグです。
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『『鬼の魔王は平和好き』
プロローグ『勇ましいだけの者』
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僕は今、忌々しい魔族を統べる王、『魔王』が住む、いわゆる『魔王城』に来ていた。
──そう、幼少の時から夢に見ていた魔王討伐を目的に。
少なく、そこらの魔物より弱い、『魔王』の手下を蹴散らしつつ南へ、南へと進んだ。
僕は英雄に憧れていた。
勇者に憧れていた。
だが僕は選ばれなかった。
『勇者』になれなかったのだ。
神託で選ばれたのは従兄である、リオールという生意気で気力のない男だった。
僕は奴の事が非常に気に入らない。
大人ぶっていて、さも「己は現実を知っている」という態度をとり、僕の行動を「勇者ごっこ」と、小馬鹿にし否定した男だ。
本当ならば奴が『魔王』を討ち、人族を勝利へと導き、この世界を平和にしなければならないのに。
『それじゃ魔族と人族の戦いは終わらないさ。いくら俺が『勇者』でも無理だし、ならばいっそ一時的なものだとしても和平を結んだ方が良いだろう? 君がしてくれるのなら兎も角ね。『勇者擬き』君?』
と小馬鹿にされた。
なんで魔族なんかと手を結ばなきゃいけないんだ。
そう思った。
そこで僕は決心した。
あんな男は『勇者』に相応しくない。
あんな生意気だが、根は臆病で、全く勇ましさの欠片もない男に、『勇者』は相応しくないと。
なら誰が真の『勇者』なのか。誰が『勇者』に相応しいか。
勿論、この僕に決まっている。
僕は『魔王』の元へと足を急がせた。
"""
「忌まわしき魔族の王よ! 我が名はハインケル・グランダル! 『真の勇者』なり! 『魔王』に一騎打ちの決闘を申し込む!」
ここは『魔王城』の最上階、忌まわしき『魔王』は玉座にて座していた。
まるでこの僕を待っていたかの様に。余裕の表情で。
「ほう。ふふっ、今度は『真の勇者』ときたか。だが、お主の持つ武器は、『勇器』では無いところを見るに、『勇者』では無い様だが?」
「ふん! あんな『勇者』などお飾りに過ぎぬ! 故にこの僕がお前を討ち! 『真の勇者』として人族を救うのだ!」
「そうか」
『勇器』。
それは、『勇者』のみ触れることを許された武器。
持ち主の意思に合わせて形状を変えるそうだが、僕には最早そんな武器など必要無い。
「つまりお主はただの『勇者擬き』と言ったところか」
「そんなのどうでも良い! 『魔王』を倒してこその『勇者』だ!」
「『勇者』でも無い者に、妾を討てると?」
「ああ! 当たり前だ! 現にお前の手下なんか赤子の手をひねる程度だったぞ!」
そこで『魔王』は右側で座している黒髪と灰色の肌をした大男と、お互いの顔を見合わせた。
誰なのだろうか。玉座の隣に座しているのだから、王族の様なものだとは思うが。
因みに左側には、白銀の髪を伸ばした美形の男が、座りながら口に人差し指と親指を当てて、こちらを興味深げに見ている。
「要するに、手下が弱いからその主を討つのも容易いと? お主はそう申すのか?」
「その通りだ。特にお前の様な、か弱い女なら尚更だろう。人族がこんなのに恐れていたとは、と思う程だ!」
そう。真ん中に座る『魔王』は、ほぼ白に近い色の肌をしており、暗い紫をした癖のある髪を肩まで下げ、特徴的な角が額の端から二本生えている。
人族の女だったら一目で嫁に迎えさせようと思うであろう豊満な胸をした、女の鬼の『魔王』だった。
背は僕より高いのだろうが、僕にしてみればそう強そうには見えない。
「か弱い女、か。滑稽なまでに勇ましい者だ。そうは思わぬか? 『吸血魔王』シリア・スウィークスよ」
「ククッ、そうですねぇ。今まできた自称『勇者』より面白い程ですねぇ。『鬼神魔王』ハル・リバンドムド殿よ」
「ハッ! 我も同感だシリア・スウィークスよ! 滑稽、これに極まり! と言ったところよのぉ! ガッハハハ───」
「ええい、『不死魔王』リゲル=アスパイダ。煩いぞ。静かにせい」
「な、なっ……」
ま、待ってほしい。
色々と待ってほしい。
馬鹿にされたと思ったら、『魔王』の両側に居た奴らも『魔王』だったとは。
困惑の色を隠せない。
そこで玉座の間、向かって右手の扉から、コンコンと音が鳴った。
嫌な予感がする。もうやめてほしいんですが。僕の心はもうこれ程までに砕けているのに。
「来たか。良い時に来たな。入れ!」
僕にとっては良い気がしないんですがね。
そしてそいつらは入ってきた。
見覚えがある。
皆、忌々しい、赤黒い髪と灰色の肌をした男達だ。
ていうか僕が『蹴散らしたはず』の魔族達だ。
「そいつらだったか? お主が赤子の手をひねるかの様に蹴散らしたという、妾の手下というのは?」
「あ、あ、ああ?」
意味が分からない。
確かにこの自慢の剣で切り刻んで吹っ飛ばしたはずなのだが。
「ふん。そやつらは不死魔族だ」
「な、ふ、不死……魔族……」
「『攻撃行為はわざとするな、そして城へ通せ』と命令したのはこの妾だ。最も、そやつらは正式には妾の配下ではなく、この『不死魔王』リゲル=アスパイダの配下、だがな」
「フッハハハハァ! そうだ! そいつらは我の──」
「ま、妾の配下と言っても、そう違いはないがな。ふふっ」
『鬼神魔王』は、まるで男にイタズラでもしたかの様に、妖艶な笑みを浮かべてそう言った。
いや実際そうなのだが。
人族だったらドキッとしたかもしれない。
──何ということだ。この僕が、完全に、掌の上で、遊ばされていた。というのか。
ええい、魔族の分際でぇ……! 憎々しい……っ!
『不死魔王』リゲル=アスパイダが騒いでいた中、『勇者擬き』ハインケルは憤怒で、その身を震わせていた。
かつて『奴』に小馬鹿にされた、あの時の様に。忌々しい『魔王』を見つめながら。
ただ震えていたのだった。
そして『鬼神魔王』は、仕方なさそうに溜息を吐き、立ち上がった。
これもだ。
何処と無く、『奴』の仕草を連想させる何かがある。
「では『勇ましい者』よ。お主の決闘、受けてやろう。妾一人と一騎打ちであったな?」
「っ、ま、待たれ──」
「我、『鬼神魔王』ハル・リバンドムド。いざ、参る」
そんなよく耳に入る、凛々とした女性の声と、強い打撃音が鳴り響くのは、ほぼ同時のことであった。
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『勇者擬き』は『鬼神魔王』に数分で敗れ、気絶したところを捉えられた。
三人の『魔王』は彼を『勇ましいだけの者』と評したことを、ここに明記しておこう。
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どうでもいいけど、幕間無しで考えても全二十六話とかになりそう(幕間は入れるつもりです。少なくとも一章に一話程は)。