『零影小説合作』第十四話〝億万の星空〟
主人公のラッキースケベって物語ではもうお約束ですよね。
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「ふふ〜ん」
よほど機嫌がいいのか、少女は地平線まで続く木と草の真ん中にある一本道を、前進しながら器量な鼻歌を披露する。
エノはそれを微笑で見つめ、アーサーは鋭い眼光を放ちながら、それを監視している。
騎士になりたいと、勇猛果敢な宣言をしたのはまだ良いが史実、まだ単なる恣意的な子供には変わらない。
目を光らせて見張らなければ、唐突とは言え何を引き起こすか分からないのだ。
何か気を紛らわす方法はないかと試行錯誤する。
それならば会話を行い、その好奇心を踏み潰してまで、安心して首都に辿り付かせようと考えついたアーサーは、適当な質問をする。
「そういえば、お前の名前を聞いていなかったな、少女。なんと言——」
不意に言葉が途切れる。
「もういないよ」
エノが、首を少し傾け少女に呆れた様な雰囲気を出す。
無邪気な容貌と黒髪が目の前から消失したかと思うと、見知らぬ銀髪の男に声を掛けていた。
「お兄さん! この大きなものはなぁに?」
「え? ぼ、僕!? 僕に聞いて、ええっと、あのええっと」
エノはひたすらに苦笑を続け、アーサーは勘弁してくれと顔面に書き込む示威で、少女を回収しに行く。
「おい、やめろ」
躊躇いなく他人に突撃して行った少女を、まるで苦虫を食べたかの様な表情で、襟を掴む。
「あ! 離してよ! まだ話してる途中!」
「お前、図に乗るなよ……? 私たちの旅に無理矢理同行させてやってるんだから、そのイージーな頭をなんとかしやがれ!」
天と地を裂く巨大な悪魔のような、恐ろしい形相を顔に浮かべながらアーサーは叱咤する。
「わああああ!?」
「ヒィィィィ!!」
その無駄に畏怖すら覚える叱咤に、驚愕した少女と謎の男。
そこらの山の木が、全て抜け落ちるような嘆きと戦慄して震え上がった声が、辺りの空間を削り取る勢いで支配した。
『ご、ごめんなさい』
何故か少女と共に、意味不明な土下座をし謝罪を述べまくる男。
流石のアーサーとエノもこの光景に困惑した。
「も、もういい、頭を上げろ。他人にまでそんな謝れ方をされると罪悪感が増す……」
苦し紛れに紛糾した状況をなんとか正そうと、自らも悪かったと肯定するアーサー。
「それにしても、そちらの男の方は誰なの?」
エノが今だ未開な謎の銀髪男に誰何する。
濁る声で、何かゴチャゴチャと呟いている為によく理解ができない。
よほどの人と顔を会わせることに逡巡していないのか、まるでその体とは正反対だ。
今は恐縮しすぎで、地面に情けなく疼くまっている為に、そう明細には姿を捉えることはできないが、とにかく体立ちが素晴らしい。
まるで、先ほどの街で襲ってきた大男と比較すれば小さい方だが、まだいい勝負をしているとも言える。
恐る恐る、その銀髪の男は体を優雅に泳ぐクジラのようにゆっくりと上げる。
「で、でかいな……」
顔立ちは輪郭と比べて、少し整っていない部分がある。
だが一度戦場に行けば、重い槍を過激に振り回し敵を容易く駆逐できるとも言っても良いほどな、勇ましさと威圧さを感じさせるガタイだ。
「あっ……」
するとその銀髪男はエノと不意に目を合わせたかと思うと、そのまま動かなくなった。
というより、視線が一本線の様に真っ直ぐエノを見つめている。
見惚れたのか、それとも会ったことがあるのか、顔全体を赤に染め上げて横に顔を俯かせる。
「おい、名を名乗れと言っているだろ」
それを見て血管を浮かばせるようにして、憤怒と嫉妬を混ぜた顔立ちになると、男の肩を人一倍強く叩く。
「あ! す、すみません。つい……ぼ、僕は吟遊詩人をやっているクレマスという者です……。今、首都から帰還した所なんですよ」
喋り方からして、当の本人は心細い感じがあり、あまり頼りならないヒョロヒョロとした見窄らしい声だ。
「はぁ。えぇっと、すまなかったな。連れが迷惑をかけた」
「き、気にしないで下さい! ぼ、ボーッとしてた僕も悪いので」
今度は謝罪大会が開催された。
このままでは互いに譲り合いという、逆風流れぬ無の境地に化してしまう。
それは時間の無駄だと、無駄を嫌うアーサーにとっては望ましくないビジョンだったので、無理に話しを転換させようとする。
「そ、そういえば! なんか首都で変わったことはないですかな! なんか!」
自分にとっても突発的な事をしたので、やはり色々と鈍る。
そしてその妙に奇怪すぎる焦り具合に、アーサーも思考を一蹴させた。
「やべぇ、やべぇ……」
それを小声でつぶやくアーサーを見た少女も一歩退く。
「うわ、凄い冷や汗」
白い空間に、ただ文字が浮上するだけで話題の引き出しからは一切と紛らわすもの言葉が空だ。
次第に、無愛想な表情にことごとく変貌して行くアーサーを見て、クレマスは歪んだ笑顔を見せる。
ーー察した。
その笑顔をみて岩石が砕けるように、自分の中のプライドというプライドが悲壮な音を立てて破壊される感覚に陥り、欠落する。
「そ、そうですね、やっぱり南の大帝国ぐらいですかね。物凄い科学力も発展していて、静電気やらなんやらまで己の力に変えて操れる人間もいるみたいで……少し首都ではそんな噂が取り巻いていますよ」
「首都でそれまでも?」
「いえ、そんなに広範囲ではないようです。あ、後そういえば、首都はその為に厳戒態勢に入ったらしく、この先にある首都に続く鋼鉄の門はもう閉まるみたいです」
その言葉に三人は今にも髪の毛が抜け落ちるかのように過激な反応をした。
「まずい! はやくいかなきゃ!」
「こんな所で暇してる場合じゃない!」
「あ、ありがとうな! 色んな情報! 急げ走るぞ!」
本当に今知った事実の様で、我忘れ真面目な雰囲気を破壊すると、後二、三分走れば嘔吐して動けなくなるのではないか、という速さで何処かへ消えた。
「ど、どうしようかな……」
吟遊詩人はそう言って、悲観な断末魔が響く一本道を走り続ける三人を、見えなくなるまで目で追った。
★
「ん? 貴族のご子息様と、従者達かい? こっから先は身分がハッキリしてる奴しか入れないんですよ。通りたいなら紋章かなんか、身分を証明するモンを見せてもらってからじゃないと通せないんですよねえ」
威圧感のある全身甲冑を纏った大男は、槍を片手に持ちながら調子の抜けた口調と声音でそう言った。
最近は何かと大男をよく見る。暑苦しいものだ。
一行は首都セントヴィールタニアの一つ前の街、第三都市ライダパールの城門前まで来ていた。
時刻は夕方である。
あの調子が狂う銀髪の男……クレマスの情報、「厳戒態勢に入り、鋼鉄の門が閉まる」と聞いて走り出たアーサー達だったが、途中でバテて休憩で大きくタイムロスするのは火を見るよりも明らかだったので、少し頭を捻った。
そこで浮上した提案とは、「首都に向かう行商人の商隊に便乗すれば良いのではないか」というものであった。
これが上手く行き、何とか一週間以上掛かる第三都市ライダパールまでの道程を、大幅に時間を短縮し三日間で着くことに成功した。
しかし結果的に間に合わず、門前で止められたのだった。
因みに旅路を共にした商隊は身分証を出し、先に進んだ。
「あ、い、いやー、紋章は屋敷に置いて行ってしまってだな。だよな、エノ」
「え……? あ、う、うん。はい」
「紋章……!」
「と、いう訳なんだ。私達は大事な用があるのだが、なんとか通してもらえないか」
アーサーは渾身のアドリブで迫真の演技をしてみせ、エノもそのアドリブに乗っかって見せる。
一方黒髪……商隊との旅の間に聞いて分かったのだが、名前はジャーナ・レイラーンというらしい。
彼女はイマイチ分かっていない様子で、しかし紋章という響きに何かを感じたのか、目をキラキラと星のように輝かせていた。
アーサーの本音としては、得物も揃っているので門番を斬ってこのまま通りたかった。
しかしそんな短気なことはしたくない上に、必ず面倒なことになるので絶対にしない。
「すみませんねえ。都市内に貴方がたの身分を証明できる人が居れば、確認の出来次第通してあげられるんですがねえ……」
門番は顔を露出させたヘルムを拳で軽く叩き、困った様子で音を鳴らしながら謝罪を述べた。
彼は、アーサー達が我が強い貴族で無理矢理通ろうとし、騒ぎになった場合を恐れているのだろう。こういった仕事の者は大変である。
「そうか……。困ったな……」
「こちらも仕事なのでね。お引き取りください」
それを聞いたアーサーは仕方なくトボトボと元気なさげにUターンをしてその場を去った。
エノとジャーナも目を合わせながら困った表情でその後を着いて行く。
暗くなり始めた空の中、歩いていく少年少女達の様子を、門番は困惑した顔で見送った。
アーサーは歩きながら今後はどうしたものか、どうやって首都まで行くか、など色々と考えていた。
二、三日程度なら野宿しても良いのだが、成る可く女子を外で寝かせるのは避けたい。警戒の為にもアーサーはあまり寝れないというのもある。
という訳で三人は、第三都市ライダパール近辺に存在する村で当分過ごすことにした。
空が完全に暗くなる前に行動に出たアーサー達は、夕飯時になんとか一つ目の村に着く。徒歩にして約三十分の距離だ。
その村は珍しく旅人に友好的な態度をとっている村であった。
暗いのでよく分からないが、何と無くアーサー達のイメージする村より幾分か発展している村だというのが分かる。簡単に表現すれば街一歩手前と言った感じだ。
「よお、お坊ちゃんと嬢ちゃん達。パフーム村へようこそ。疲れてるだろう。宿屋まで案内したろか?」
「歓迎には感謝するが、案内はいい。ありがとう」
話し掛けて来たのは豊麗線が刻まれた五十代と思われる初老の男性だ。
宿屋までの案内を断ったのは案内料を払わされたり、無駄に高い宿屋に案内されたりするからである。
これまでの旅でアーサーも学習した。もう彼を世間知らずの〝元若き国王〟と笑う者も居ないだろう。始めから居ないのだが。
「お兄さん、もう疲れましたー」
「我慢しなさい」
ジャーナとエノの会話がアーサーの背後で繰り広げられている。
ジャーナは良くも悪くも、歯に衣着せぬ発言が多いので、今回みたいなわがままを言うたびにエノが窘めるのである。
ここ一週間だけで随分と仲が良くなったものである。
同じ女子であるということも関係しているのだろう。
しかし傍目から見れば二人は姉妹のようだ。特に今みたいな暗い場所では、エノの美しい青髪もそこまで目立たない。
そうして二、三軒ほど宿屋を周ったところで良い宿屋が見つかったので、取り敢えず三人部屋を一週間分、朝夜の飯付きで貸してもらうことになった。
「あいよ。三人部屋、朝晩飯付きの一週間分で銀貨二枚と銅貨九枚だ」
アーサーは銀貨二枚と銅貨九枚を渡す。
「ひ、ふ、み……丁度だね、毎度。部屋は三階の部屋で好きなとこを選ぶといいさね。赤い札がぶら下がってるところは、使用中だから——」
受付の女将の説明を適当に聞き流した後三階に上り、適当な部屋を選んで扉に赤い札を下げる。
「はー! 疲れたー!」
「はあ」
部屋に入るや否や部屋にある三つのベッドで、一番扉に近いところにあるベッドにジャーナは飛び跳ねてダイブする。
しかし、疲れたのにはアーサー達も同意見なので咎める気力さえもない。
アーサーは三人分の荷物を、扉から左手の角のところにある箪笥に整理整頓に心懸けながら仕舞う。
「そういえばアーサー。女将さんの話ではもう晩御飯食べれるみたいだけど、どうする?」
「食べる!」
「そうだな、二人は先に下へ向かうといい。私も後から行く」
「分かったー。ほら、ジャーナ行くよ」
そう言って二人の少女はそそくさと部屋を出て行った。
アーサーが二人を先に行かせたのは勿論理由がある。
「ふぅ」
そんな軽い溜息はアーサーから出たものではなかった。
アーサーは忌々しそうな表情をしながら、箪笥からゆっくりと離れる。目線は箪笥の口を見ていた。
ふと、縁に白い指が重なる。
アーサーは眉間に皺を寄せながら、苛立たし気に口を開く。
「随分とまあ、スカした登場の仕方だな」
「ふふふ。ドキドキするでしょう?」
箪笥の中から出てきた声の主は、場違いな青いドレスをした赤髪の美少女だ。見た目ではジャーナとそう変わらない年齢に見えるが、彼女は人間ではないため正確な年齢は分からない。
「——アスタロト」
「はいはーい。お久しぶりねえ」
約二年と一ヶ月ぶりの、悪魔との再会である。
アーサーは彼女を睨み、様子を窺う。
怨みという怨みは無いが、この悪魔は非常に胡散臭い態度を取るのだ。
以前会った時よりも戦闘力が上がってるとはいえ、またこうして目の前に立たれてまだ彼女の領域には達してないことを、アーサーは嫌という程感じてしまう。
アスタロトは前回も前々回も同じことだったが、敵意という敵意はない。
しかし油断してはいけない。彼女なら、ほんの数十秒でアーサーを殺めることができるからだ。
アーサーは眼を目一杯開き、目線をアスタロトに固定させながらいつでも逃げ出せるように姿勢を低くする。ここで戦闘になればまず命はない。逃げ切れる確率は低いが、そこに賭ける他ない。
ここは会話の相手をしてさっさと失せてもらうのが得策である。彼女は胡散臭いのだから。
「全く酷い評価だよね。もっと優しい顔で見惚れてくれれば良いのに、相変わらずなんだからあ」
「なら、お前の言動を改めたらどうだ? 人外ではあるが、お前は美しい。態度次第では可愛がりたいくらいにはな」
「あらまあ。そんなこと言われると照れちゃうわ」
悪魔は頬を赤らめながら、照れ臭そうに身を捻る。
一々動作があざとい。本当に普通の女子だったらどれだけ良かったことだろう。実に不快で、アーサーの神経を的確に逆撫でしている。
「今回は何の用だ」
「分かってるんじゃないのー?」
「……」
問題が発生した時に出てくるのだから、胡散臭い彼女ならそれに関する情報を持ってくるのだろう。
何の目的があるのかは分からないが、掌の上で踊らされているような気分になるのでアーサーにとっては不愉快の他なかった。
「貴方が恋しくなってきたのよー。ハグしたりしたいなー、なんて?」
「はぐらかすな。要件だけ言ってさっさと失せろ」
「きゃー。本当、冷たいんだからあ」
熱っぽい声と目線をこちらに送る美少女は、実に挑発的である。
無論アーサーは警戒したままである。アーサーは要件を茶化して後回しをするアスタロトに焦れったさを感じ、怒気を発し始める。
「ふふっ、そんなに焦らなくてもいいのに。ああ、女の子を下に待たせているんだっけー?」
「早く言えッ!」
アーサーは怒鳴ってしまう。アスタロトはそんな彼の様子を見ながら、やはり誘うような笑みを浮かべるのみである。
アーサーはそんな彼女の様子に、更に怒りを膨らませるが、それと同時に頭の何処かが冷えて行き、冷静になることができた。一周周ったようだ。
それからはアーサーは落ち着いて沈黙を保った。彼なりに何を言ってもアスタロトは、それを利用してはぐらかせてくると判断しての態度である。
アスタロトはアーサーのその様子に、再び「ふふっ」と可愛げな声で鼻を鳴らし、口を開く。
「あの鋼鉄の門を超えるには、都市の南南西にあるキャクルエ村の隠れ通路を通ればいけるよー」
「……ッ!」
彼女は軽い口調で簡単に解決法を言ってしまった。あっさり過ぎる。
驚きに跳ねるアーサーの肩を見ながら、アスタロトは可愛い動物を見たかのように微笑みながら続ける。
「勿論、キャクルエ村の人達と仲良くなってからじゃないと、存在さえ教えてくれないんだけどねー」
アスタロトは音を立てずに、反対側の窓へと歩きながら喋る。
アーサーは視線でアスタロトを追いながら警戒を解かない。
「特にリーアンっていう子とは仲良くなっておいた方が、いいことあるかもー?」
アスタロトは窓を開けながら、アーサーに顔を向けてそう告げる。
アーサーはそんな彼女の様子を見ながら、疑問を述べる。
「なあ、教えろ。お前がなんで俺の益になることを教えるんだ。理由を言え」
「ふふっ。貴方に好かれる為、かなあ?」
アスタロトはこの数十分とも数時間とも錯覚してしまいそうな会話の中で、何度目か分からない魅力的な笑みを作り、アーサーへ向けながらそう言い放った。
美しい笑顔を向けられたアーサーだが、その表情は煮え湯を飲まされたように一層歪み、彼女に言い捨てる。
「ちっ。だからお前のことが嫌いなんだ」
「それは残念だわあ」
アスタロトの情のこもった声と同時に、空気が微かに振動する音が響く。
気付いた頃には彼女の姿が無くなっていた。
アーサーは警戒態勢を解かないまま、窓際へとゆっくりと近付く。
なんの違和感も消えており、窓から顔を出しても何もなかった。精々億万の星々が輝く夜空が見える程度だ。
途端にアーサーの身体を安堵が包む。気付けば背中が冷や汗で濡れていた。もし彼女から本気の殺気でも浴びせられたら、と考えるとゾッとしない話である。
「はあ」
アーサーは重い重い溜息を吐きながら上半身を裸にし、背中を汗拭きで清める。
「アーサー?」
すると、扉が開くと共にエノの声が呼ばれたアーサーの耳に入る。
しかしアーサーは精神的にも身体的にも疲れたので返事はしない。
いそいそと拭く作業を続けながら、エノの言葉の続きを待つ。
しかし数十秒ほど沈黙が続いた。
流石に何かおかしいと思ったアーサーは、胡乱げな目で扉の方へ視線を向けるとそこには、
「あ、あぅ」
そこには顔を赤らめて口をパクパクと開閉させる、白いうなじが魅力的なポニーテールのエノが、ドアノブに手を掛けた姿勢のままこちらを見ていた。
アーサーは目の前に在る生き物を知っている。アレこそが天使と呼ぶに相応しい。
取り敢えず、赤面しているエノを見ているとこちらも変な気分になるので、アーサーは声をかけることにした。
「え、エノか。私もこれが終わったらすぐ行くから」
「ひゃ、ひゃひ!」
停止していたエノは、アーサーに声をかけられたことに気付くと慌てた様子で扉を閉めて、アーサーに聴こえるくらいの強い足跡を残しながら走って降りて行った。
「ふぅ」
再び溜息を吐く。今度の溜息は先ほどより幾分か軽いものであった。
「一気に毒気を抜かれてしまったな」
流石エノである、そうとしか言えない。
青髪の少女の可愛さを噛み締めながら作業を終えたアーサーは荷物を片付け、部屋から出るのであった。
その晩は飯を腹一杯に食べ、ゆっくりと泥のように眠った。
明日からの英気を蓄える為にである。
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次回は鋼鉄の門突破?! 彼らの元に何が待っているのか! http://kuhaku062.hatenablog.com/にてお楽しみに!